【赤白・馬白】ダークホース(完結編)

※ダークホース1〜3の続きです





ザーギンがヘルマンに事情を説明していた間も、ジョセフとヴァイスの対峙は続いていた。
しばらく膠着状態が続いていたが、ジョセフが口を開いた時、戦況は変わった。
「ゲルト・フレンツェン!」
ジョセフは何かに気付いたらしくゲルトに呼び掛ける。
「ゲルト・フレンツェン、お前が馬を説得してみろ!」
「えっ」
そういえば、今の白馬はシャツの襟をくわえた状態だから自分は普通に喋れるのだと、ゲルトはそこでやっと気付いた。
しかし口を開けたらまた白馬が舌を入れてくるのではないかと不安がよぎる。
ゲルトが躊躇する理由を見越したのか、ジョセフはヴァイスにも呼び掛けた。
「馬、お前はゲルトの話をちゃんと聞くんだ。いいな!」
イシスの力とはいえ自分を死に追いやった相手だからか、ジョセフに畏怖を感じたヴァイスは、ゲルトの服から口を放す事で従う意志を伝える。
この流れに安心したのか、昔マネージャーのマシューにたたき込まれた「子供のファンへの対応」を思い出しながら、ゲルトはヴァイスを説得しはじめた。



「それで彼はちゃんと説得出来たと」
「ゲルトはよく頑張ってくれた…今は疲れ果てているようだが」
「確かに、今のヴァイスには彼の言葉が一番届く…よく気付いたねジョセフ」
ザーギンは自分の期待通りの働きをしてくれたジョセフに満足した様子だった。
しかし、もう一人の男は釈然としないらしい。
「事情はわかった。よくわかった。だけど…」
ヘルマンはジョセフを睨み付けて言い放つ。
「その程度の事しかしてないのに、なんでてめえは偉そうに白馬の騎士してんだよ!!」
白馬の騎士。ゲルトをお姫様抱っこしながらヴァイスに乗っているジョセフの姿はまさにそれだった。
何をどうすれば、あの話からそんな事をする展開になるのか分からない。
不満の視線を送るヘルマンに対し、彼には珍しく、少し照れくさそうに頬を染めながらジョセフは言葉を返した。
「こういうの…一度、やってみたかったんだ」
「えっ?」
威風堂々、救出した姫を抱き抱え馬にまたがる。確かに男のロマンの一つではある。
鳥のように軽いお姫様の代わりが三十路男性なのは、見た目にもジョセフの腕力的にも問題ではあるが。
「つーか腕震えてんじゃねーか!てめえがゲルトをお姫様扱いなんざ100万年早いんだよ!!」
「ヘルマン・ザルツァ」
「な、なんだよ」
いきなり名前を呼ばれ、一瞬動揺する。
「受け取れ」
照れ隠しか、成人男性をお姫様抱っこは腕力が保たなかったのか、ジョセフはゲルトをヘルマンの上へ放り投げた。
「えっ?あ、うがあ!!」
大切な人とはいえ80kgはある成人男性がいきなり上から降ってきたら、受け止めるより下敷きになる方が自然な結果だろう。
案の定、ヘルマンはゲルトと折り重なるように地面に倒れてしまった。
「これ以上ここにいたら邪魔だ。行くぞ、ザーギン」
二段重ねの二人に背を向け、勝手に馬を走らせるジョセフ。
ヴァイスは名残惜しそうにしつつも、ジョセフへの畏怖もあってか素直に従って走りだした。
「ジョセフ、ここは手を差し伸べて二人乗りがセオリー…仕方ないか。それじゃ、失礼するよ」
言うや否や、ザーギンは飄々とした雰囲気から一転、豪快な走りでふたりの後を追い掛けていった。

嵐が去り、残されたのはゲルトとヘルマンの二人。
「あの二人、仲がいいんだろうな」
去りゆく者達を微笑ましく見つめるゲルト。だがすぐに重大な事に気付く。
「ゲルト…」
「す、すまないヘルマン!!」
倒れたヘルマンの上に乗ったままだった事を思い出し、すぐに横に退く。
しかしヘルマンは起き上がる気配がなかった。
「大丈夫かヘルマン?白馬に蹴られたダメージが今になって」
「アイツに…」
「?」
「その程度の事しかしてないって言っちまったけど、俺はその程度の事も出来なかったんだよな」
「ヘルマン…」
「ゲルトごめん、俺…役立たずだ」
仰向けに倒れたまま右腕で視界を覆う。
「…」
ヘルマンのまっすぐすぎる性質も優しすぎる性格も、彼に心を救われた事のある自分が一番よく知っている。
だからこそ、自分の為にヘルマンが落ち込んでいるのはもう見たくない。
そう思ったゲルトは、ヘルマンの頭をそっと撫でる。
「ゲルト?」
赤髪を撫でた右手をヘルマンの頬に持っていき、顔を少し上を向かせる。

「俺からの“ご褒美”だ」

左腕に体重を乗せ、バランスをとりながら、ヘルマンに覆いかぶさる形で二人は、唇を重ねた。
「!」
重ねた唇からゲルトが舌を出し、ヘルマンの歯列の表を、裏をなぞる。
ゲルトが舌で誘い出すまでもなくヘルマンの舌はそれを絡めとり、反撃開始とばかりにゲルトの口内を侵していく。
同時にゲルトの頭を両手で抑えつけ、馬に乱された髪を更にかき乱す。
ヘルマンに異変が起こったのはその直後だった。
「……! !!」
毒でも盛られたように、顔がみるみる青ざめていく。
「グェホ!ゴホ!ガホ!」
ゲルトを跳ねのけて飛び起き、首に掛けたマフラーで口を押さえ、涙目で言葉を吐き出す。
「…う、馬くせぇ……」
「だろうな」
馬にディープキスされたゲルトにディープキスされた事で、結果的に馬と間接キスをするハメになったヘルマン。
その反応はゲルトの予想通りだったようだ。
「だろうなって…ゲホッ…アンタ確信犯か!」
「口の中が気持ち悪かったから、口直しがしたくてな」
「口直しって…俺はうがい用の何かか!」
「お前口の中切ってるだろ。血の味がするうがい薬なんてシュールすぎるぞ」
「ゲルト、アンタなぁ…」
ゲルトの頭に触れた事で馬の唾液の餌食となった手もマフラーで拭くヘルマンに、ゲルトは優しく笑みを向け、彼に向け言葉を紡いだ。

「でもこれで、お前は役立たずじゃなくなっただろ」

「………あっ」
ヘルマンの反応にゲルトがしてやったりと思ったのは束の間。
「ゲルト…」
ゲルトの真意に、ゲルトが自分を気遣ってくれた事の嬉しさに、何よりゲルトの微笑みに、ヘルマンは全身から喜びが弾けだしそうで。
そんな彼の状態に、身の危険を感じた時には既に遅く。
「…ゲルトオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
次の瞬間、ゲルトは歓喜のヘルマンに抱きつかれ、押し倒されていた。
「こら、ヘルマン、苦し…!」
間髪入れずヘルマンからディープキスに持ち込まれ、今度は最後までたっぷりと舌で口内で冒される。
「……お前、さっきは馬臭いと嫌がってなかったか!?」
「あれで慣れちまったよ」
そんなに簡単に慣れるものなのかと思う間もなく、勢いに乗ったヘルマンに顔中をキスされ舐められてしまう。
「馬の味がするゲルトってのもレアでいいな」
「顔を舐めるな!お前は犬か!」
「服もベトベトになってるよな。これ脱いだ方がいいんじゃないか」
「人の話を聞け!…って、待て!いい、自分で脱ぐ!」
「遠慮するなよ、脱がし方分かっているし」
「いや、そういう問題じゃなくて」
同じ服を持っているからか実に手際よく馬の唾液に塗れた上着を脱がし、今度はオレンジのシャツを捲り上げる。
「ん?」
シャツを首のところまで捲り上げたところで動きが止まり、体に湿っぽい感触を感じる。
「ここはちゃんとゲルトの味がする」
「こら!腹を舐めるな!」
中途半端に脱がされた事で視界と両腕を封じられ、ゲルトが本格的に身の危険を感じたその時。
「二人とも逃げろー!」
聞き覚えのある声と地鳴りの音。
「!?ってなん…ギャーッ!!」
直後にヘルマンの悲鳴が聞こえ、ただならぬ事態にゲルトが脱ぎかけのシャツを上げ視界を取り戻す。
「これは……」
そこには、ゲルトのあられもない姿に対しての怒りでヘルマンの尻に噛み付く白馬と、馬に振り落とされないようにしがみついていたと思われるジョセフの姿があった。
ゲルトと目が合ったジョセフは、申し訳なさそうな顔で言った。
「すまない…俺のせいだ」

[342] 独逸超人 (2008/10/30 Thu 23:30)


続き

「まったく驚いたよ」
「…」
なぜ今、ヘルマンと白馬は真剣にケンカをしているのだろうか。
「私がジョセフに、先程の戦いで君達に助けてもらったお礼は言わなくてもよかったのかい?と言ったら、ヴァイスがジョセフを乗せたまま走り出してしまったのだから」
「…」
なぜ今、自分はザーギンと二人で人VS馬の観客になっているのだろうか。
「ヴァイスは真面目で律儀な子だからね」
「…」
ジョセフをしがみつかせたまま戦っているのは、白馬へのハンデなのだろうか。
「アンドロマリウスは盗まれたものを取り戻す正義の悪魔だから、ヴァイスが君を盗んだ件は彼に任せたけど、ジョセフに喧嘩の仲裁が出来るかな」
「…」
否、ジョセフは降りるに降りれなくなったのだろう。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。なんたって、ジョセフは私を凌駕した存在だからね」
「…」
なぜヘルマンはジョセフに当たる事を考えず攻撃を繰り出せるのだろうか。
「そろそろベアトリスが迎えにきてもよさそうなんだけどねえ」
「…」
色々と哀しくなってきて、ゲルトは両手で顔を覆いうなだれてしまう。
「ほら、ちゃんと見てあげなきゃ。ヴァイスも彼も君のために戦っているのだから」
「…」
顔を上げようとしないゲルトにやれやれと溜め息をつき、ザーギンは決闘とも言える戦いを眺め、一人呟いた。
「これはどちらも負けられないだろうね」


「負けたら自分は“当て馬”になってしまうのだから」


(おわり)

[343] 独逸超人 (2008/10/30 Thu 23:31)


申しわけありません

レスの容量を越えてしまったので、続きを改めて投稿しなおしました。

もうこんな長い話書くものかと心に誓う、秋の夜長です。

[344] 独逸超人 (2008/10/30 Thu 23:37)


腹筋崩壊

完結おめでとうございます!

一番輝いていたのは、銀様の素っ惚けっ振りでしたw
あと、腕をぷるぷるさせながらも憧れのお姫様抱っこを敢行してたジョセフかわゆス(*^_^*)

まあ、ヘルマンは苛められるのはお約束とゆーことでw
馬に蹴られたバカップル、ご馳走さまでした!

[346] イーゴ (2008/10/31 Fri 08:25)


Re^4: 【赤白・馬白】ダークホース(完結編)

やってみたかったのかジョセフwww
ってか、投げるなよw

つーか普通に仲が良い銀様とジョセフに萌えました
そして馬と本気で喧嘩するヘルマンがアホ可愛すぐるw

[347] wald (2008/10/31 Fri 12:53)


超絶愉快

すごすぐる!www
馬と最後まで真剣勝負なヘルマンもかわいいけど、お姫さま抱っこしてみたかったハニカミジョセフがありえないくらいかわいすぎるwww
端から端まで映像を想像するとものすごいことになっててたまりませんwww

そしてなんだかんだザーギン様が美味しいところをもっていっているのがらしいですw
今回一番楽しんだのはザーギンじゃなかろうか(笑)


もー全編面白くてたまりませんでした。
独逸超人さん天才!

[348] 整備員 (2008/10/31 Fri 19:08)


おもしろすぎるwwww

やったー、完結キタ!

軽妙なギャグと萌え、サイコーっす。
全編ゴチになりました!!

[349] 九郎 (2008/10/31 Fri 21:06)


完結編返信

1が馬人気、2が銀様人気としたら、今回は黒い人が人気ですね。

> イーゴさん
ありがとうございます。
ヘルマンにひどいことしすぎたかなと内心ハラハラしていたので、そう言って貰えるとありがたいです。
ジョセフは腕もさる事ながら、馬に乗りながらお姫様抱っこしていたら腰にも相当きてそうなのが801的に心配です。

> waldさん
その節はお手数をおかけしました。
銀様とジョセフは試合が終わればノーサイド的な、全てが終わったら普通に仲良くしてそうなイメージです。
馬に乗りながらお姫様抱っこは、私がジョセフに主人公の雄姿みたいな事をやらせたかったのです。

> 整備員さん
照れジョセフはDVD1巻の設定資料の照れ顔ジョセフが可愛かったから、どうしてもやらせてみたかったのです。
銀様はフリーダムすぎるのが素敵で美味しい方ですね。
天才と言われた事がないので、つい照れてしまいます。

> 九郎さん
完結、ヤットキタマン状態ですね。
自分ではギャグは苦手な方だと思っているので、誉められると嬉しい関西人です。

[350] 独逸超人 (2008/11/01 Sat 02:13)


Re^8: 【赤白・馬白】ダークホース(完結編)

ネット落ちしてる間に完結してた馬〜
「馬、お前はゲルトの話をちゃんと聞くんだ。いいな!」
とジョセフが諭すとこがすんごく好きです。
全編シャレが効いててすごい面白かったです。ギャグって書くの本当に難しいんですよね…しかもオチも秀逸!素晴らしい〜

[359] hanage3 (2008/11/07 Fri 21:52)


完結編返信2

> hanage3さん
はい、やっと完結しました。
実はジョセフがどうやって馬からゲルトを救出するか…と言うより、馬をゲルトから引き離す方法自体、1話目を投下した時点では特に決まっていませんでした。
好きな漫画家さんの「来週の自分がなんとかしてくれるだろう」理論を頼りに、ジョセフの扱いとともに二転三転して今の形になったので、気に入っていただけて嬉しいです。

そういえば、最初は具体的なオチも決まってなかったという博打状態だったのを、今思い出しました。
オチも誉めていただけてよかったです。

[362] 独逸超人 (2008/11/13 Thu 00:25)