【前提】ゲルトがまだ不慣れな新人レーサーでヘルマンはチームに入る前、ただの走り屋です。
新刊の漫画のお話のプロット代わりにお書いてみました。
オチが弱い気がするんので、SSかかれる方のご指導などいただけると嬉しいです。
------------------------------------------
ギアはもうとっくに5速に入っている。
自国のデザイナーによって作られた独特の鋭利なフォルムを持つコイツは、パワーもトルクも申し分なく作られていたが、技術が進み剛性を保ったまま軽量化が可能になった昨今、ファッションとして街中で見ることはあっても、峠でストイックに乗り回す奴など、俺以外にお目にかかることはなくなった。
それでも、ヘルマン。最新型を駆るお前にはいまだ負ける気はしない。
一つ、二つ、三つ、その後の息継ぎのような緩やかなカーブを抜ける間にミラーに気を配り、後方の様子を伺う。
…奴め、笑いやがった。俺がわざわざ余裕で追いつけるように走っているとも気づかずに。
まだまだ甘いな。
次のハイスピードコーナーで、俺を抜くにはまだまだだと思い知らせてやる。
カーブが近づく。イン側の右は奈落へ向かう断崖。
ここで見せてやる、という合図代わりに、ランプがつく程度にブレーキを入れる。
チカ、チカ、と2回。
奴の体に、軽く力の入る様子が見えた。
この程度で緊張するとは、分かりやすい奴だ。気負いすぎてしくじらなきゃいいが。
スロットルを開け、この峠の常連達が出す進入速度より僅かにスピードを乗せ、ラインを調整する。
次の瞬間にフル・ブレーキ。
同時にクラッチを切り、一気に3速へ。
体を入れるとリアがすべり、ゆらりと傾く感触。路面が迫ってくる。
体にゾクリとした感触が走る。恐怖ではない、強烈な、快楽。
しかし、これに身を任せるのはほんの一瞬。
いつまでも感じていたいが、そのままでは地面と接触して、クラッシュだ。
そして、一瞬という制限つきの快楽だからこそ、より強い歓喜を得られるのだ。
メーターに頼らず、体全体で適切な速度を見切り、スロットルを徐々に合わせる。
バンクセンサーを擦るギリギリの角度を保ち、理想的なラインをトレース。
見えるか、ヘルマン。
ミラーに目をやると、強めにハングオンしながら追いつこうと必死な姿が見える。
全く、俺が教えたことが生きていない。
全てが強引だ。
力任せにブレーキを入れ、強引な荷重移動、美麗な円弧などあったもんじゃない。
なのに、追い抜かれたことこそないものの、何故かミラーから消えたことだけはない。
ああ、一度だけあったか。
最初に本気でこのコーナーを曲がって見せたとき、大転倒しやがったんだ。
違う意味で一瞬でミラーから消えて、生きた心地がしなかったっけ。
無傷で立ち上がったときは、一瞬殴ってやろうかと思ったが。
気がつけばコーナーの出口、洩れる笑いをかみ殺しながら、スロットルを更に開け、タイヤのグリップが戻り、車体がふわりと起き上がる。その姿はまさに返す刃のようだ。
ヘルマンも体をハネ上げ、合わせてきた、同じ道を走っているというのに、まるでロデオだ。
そう、奴は赤いモンスターとすら呼ばれるアレをパワーと野生の勘で乗りこなしている。そして、徐々に差は詰まりつつある。
正しい技術を身につければ、もっと上を目指せるだろう。
ポツ。
カーブを抜けて安定したところで、路面に黒い染みができる。
それは急速に増え、路面を黒く染めていく。
「ち…、予報じゃ晴れだったのに。今日はここまでか」
小さく舌打ちをして、後方を振り返り、『今日はここまで』と目で合図する。
このまま麓までのんびりクルーズしていくか…と考えているうちに、空が急激に曇り、雨は益々勢いを増してきた。
…おいおい、こんなのは聞いていないぞ。外れにも程があるってもんだ。
前が見えなくなる前に、急いで手近なエスケープゾーンへ近づき、ウインカーを出す。
そのまま樹の下へバイクを滑り込ませると、ヘルマンも後に続いた。
エンジンを切ったときにはあまりの土砂降りに、周囲の視界は真っ白になっていた。
「ぷはぁっ!なんだよコレ!聞いてねえぞ!」
ヘルメットを勢い良く脱ぐと、俺が心の中で呟いたのと同じ台詞を奴は大げさに吐き出す。
口に出す言葉は違えど、同じことを思うのは、けして悪い気分じゃない。
「すまんなヘルマン。もうちょっと判断が早ければ濡れ具合もましだったろうに。」
「いいってことよ、仕方ねぇさこれは。急すぎる。」
「全くだ」
「それよりゲルト、お前、ひっかけやがったな」
「何の話だ」
あの、最初の3コーナーのことだろうが、あえてとぼける。
「俺は、しょっぱなからケツまで全開のお前に付いて行きたいんだ、なのに手ェ抜かれるとは、甚だ不本意だな」
いい年をして、ふくれっ面を晒す。全くこいつときたら。
「その程度も読み取れないようじゃ、まだまだってことだろう。むしろ、その隙に抜くぐらいの勢いは必要だな。勝つ気なら、どんな隙も見逃すな。」
図星を付かれたという顔で、黙りこくる。
そのまま、沈黙。
この身動きの取れない状況で、さらに精神的にも身動きが取れない状況に陥ったか…こいつはまずい。
これは、俺のほうから何か…
「…っくしょん!」
不意打ちに固まってしまう。
奴が俺の顔を見て、バツが悪そうに微笑んだ。
「すまねぇ、なんか言わないと…と思ったんだが、見ての通り、喋れなかった」
また同じことを思っていたらしい。
嬉しさと、奴の可笑しさに思わず頬が緩んでしまいそうになるところを、照れ隠しに抱き寄せる。
「な…急にどうしたよ」
「冷えてるんだろう。これ以上冷やすと、手がかじかんで帰りに運転をミスるぞ?チームフェニックスのホープと一緒に走っていて、事故られたなんてことでは困る。」
「そのホープが男と抱き合ってるところを見つかったりしたら、どうする。スクープもんだぞ。」
「この雨だ。いきなり降られたのでもない限り、通りやしないさ。それに、こうも視界が悪くちゃ誰かなんてわからないだろう。雨が、全部隠してくれる。」
その言葉に緊張が解けたのか、ヘルマンは暖を取るべく身を摺り寄せてくる。
体も、息も震えている。相当に冷えていたようだ。
少し力を込めて、抱きすくめてやる。少しは暖かく感じるか?
据わりが悪いのか、奴が軽く身を捩る。
すると、俺の唇に奴の鼻先が当たった。
普段、友人として適切な距離で向かい合えば、意識することのない僅かな身長差。
その5cmの低さを実感する。
奴はどう感じている?これほどに近いのでは、目を見ようにも下を向かねば見づらい。
チラと目を下にやる。奴も目線を上げた。
また、同じ事を考えた。 そのまま息が、混じる。
どちらからなのか。軽く唇が触れた。
勢いは止まらず、深く口付ける。
突如、襟を取られさらに深く。
なんだ?これは?
舌や唇を吸われる痛みと共に、ゾクゾクと突き上げるような快楽に襲われる。
まさか、あの車体が倒れる、あの瞬間よりももっと上の感覚があるなんて。
いままで感じたことのない感覚に一瞬怯むと、奴が追い討ちを掛ける様に噛み付いてきた。
見くびっていた。こいつは、俺のケツを追っかけまわす犬なんかじゃない。
まるで獣じゃないか、俺を狩って食うつもりか。
ならば、食われる前に食い返すまで。
樹に奴を押し付け、噛み付き、食う。
口だけで、互いを貪り合う。
…これだ。
チームに入って以来、未だ新人とはいえ、思い通りに走れなかった訳は。
常識や、気遣い、無意識の抑制、そういったものに囚われ、俺の中の獣はすっかり閉じ込められ、燻っていた。
そいつを奴がこのキスで呼び覚まし、引きずり出した。全くなんて奴だ。
俺の中に、今までと違う力強い何かが滾る。
これなら、勝てる気がしてきた。
俺がチャンプと呼ばれる日もそう遠くはないだろう。
[303] パラディン (2008/10/15 Wed 02:05)
プロット拝読しました。
拝読してまず一番に思ったのはこのネタは漫画より小説の方が好ましいのでは、と思いました。
ここまで情景について述べたり、キャラの掘り下げをされているのなら、断然小説の方が面白いし、読み応えがあるだろうと思うからです。
個人的に特に気になった描写は以下の通りです。
@赤の攻めぶりが突発過ぎるのでは?
白が先に唇を合わせてからがっつくのなら分かりますが、どちらからともなく唇を合わせたのなら赤なら様子を見るというか自分から動かない気がします。
赤は白に対しては友人でもありますが、尊敬もしてると思うので、白からOKをもらえたと感じない限りは積極的に動かないのではと思います。
A白が自分からチャンプと呼ばれる日もそう遠くはないだろうという台詞をいうのか?
白の人間味を出されたいのなら最後はああいうまとめがいいと思います。
カッコ良くされたいのなら、チャンプという具体的な名称をだすよりも、もっと高みを目指せるとかにされた方がよいのではと思いました。
具体的な名称=即物的という印象を与えるかと思いますので。
今回、イヲリは真摯に意見を求められたのだと勝手に判断し、書かせて頂きました。
気分を害されてしまったら大変申し訳ないなと思っています。
それでは失礼します。
[304] イヲリ (2008/10/15 Wed 11:48)
イヲリさん>
うわ!すごい真面目に書いていただいてありがとうございます!
確かに、漫画で描ききれない部分を掘り下げてみたくて書いてみた部分もあるので、SSとして挟むっていうほうがいいかもしれませんね。
にしてもなるほどです。
1)に関しては、多分自分の書くヘルマンってすごい前期キャラの要素が強いので、遠慮ない感じに書いちゃうところがあります。
イヲリさんの仰っているのは、後期のキャライメージも考慮されてのことだと思います。
確かにそのあたり思いっきり抜け落ちているので考え直したほうがいいですね…
2)に関してはうわわわ!すいません…
ですよね…あとでかなり後悔しました。
あの一文は、雨があがる情景描写にでも切り替えます。
すごく恥ずかしい…
ていうかやっぱSSたくさん書いている人は「やられたー」と思わせるツボついてくるな…(笑
[305] パラディン (2008/10/15 Wed 12:04)
オチの方で思ったのは、白が赤に気づかされて感謝の気持ちを込めて頭を撫でながら
「ありがとう」というような感謝の言葉を述べるのに対し、
突然のことに訳が分からなくてきょとんとしてる赤が思い浮かびました。
でわでわ〜。
[306] イヲリ (2008/10/15 Wed 12:09)
空気を読まずにコメントしますよ〜
オチのことですが、強気なヘルマンが設定の場合、キスをするへんのくだりでゲルトさんに対して、もっと吠え立ててくれると、最後のくだり(闘争心を取り戻すゲルトさん)に説得力が増すのでは!と。
でも、バイクの描写などは、乗らない私が書くよりもずっと臨場感がありますよね。
おそらくは、字と漫画ではおなじ話を書く場合でも、脳みその中の違う部分が考えてるんだな〜と思います。
[307] はなげさん (2008/10/15 Wed 19:25)
漫画のプロットて言葉があった所為か
頭の中で勝手にコマ割って読んでた!w
描写が丁寧で、濃密で、判りやすいし(容易にビジュアライズできる)、とても大人な雰囲気で萌えるお!
早く漫画でも読みたいお!!
つか逆にヘルマン視点も読みたスwwwwww
[309] 九郎 (2008/10/15 Wed 20:06)
レスしてくださった皆さん、ありがとうございます。
真面目に書いてくださって、幸せものです。
色々あったりするので、すぐには難しいのですが、修正するつもりです〜
そのときは見比べられるように古いのはどこかにUPしてリンクもはりますね。(徹底的に恥を晒す:笑
ところでこれを書くにあたって、ゲルトの昔のバイクのモデルになっているカタナを詳しく調べました。
折角調べたので書いときます。
カタナは、ドイツのデザイナーにスズキが依頼して製作されたバイクとの事です。一番最初の発表は、ドイツ・ケルンのモーターショーだったんだとか。
ちなみに、レーサータイプのヘルマンバイクと違い、ネイキッドというタイプに分類されるので、実のところあまりこういった攻めの走りに向いたバイクではありません。高速道路をマッタリのんびり走ったり、街中をクルーズするバイクだったりします。
使いどころが謎っぽいですが、何かのお役に立てば^^
イヲリさん>
おおっ。それもいいっすね。かわいいっていうか、ワンコだ!
はなげさん>
前期寄りキャラだと、それっぽいですね。
うんうん、自分でも使っている頭が違うな〜と思いました。
あと、漫画だと「ご想像にお任せします」という必殺技が使えますが、字は使えないですね。
九郎さん>
ありがとうございます。
絵描きの文章なので、絵や漫画をメインで描く人には入りやすいのでしょうか。
とはいうものの、同人で描くのは雨から先の描写になりそうです(だから余計直さないとw
前半の2輪描写はたぶん一人で同人では難しいだろうな…3Dを導入すべきかもしれない…。
[313] パラディン (2008/10/16 Thu 07:45)
旧・ドラえもん声でお読みください。
乗り遅れましたが、私もヘルマンがゲルトにガッつくのもいいかな〜なんて思いました。
目が合って獣の欲情の色を見てとれば、
噛み付かれるまえに噛み付いてやろう!という勢いでがっついてもヘルマンなら許されるかもしれません。
[315] null (2008/10/16 Thu 20:09)