気がつくと、ジョセフはあの打ち捨てられた倉庫の中にいた。
初めて目を覚ましたときに感じたのと同じ、埃と錆の匂いの漂う室内は、仄暗くて昼か夜かも分からない。だが、どうやら自分はソファの上に横たわっていることは分かった。
だが、何かが違う。目に映るものは確かに例の倉庫の中だと告げているのに、雰囲気が全く違う。まるで見せかけだけの書き割りのような、そんな現実感のない印象を受ける。
よく見知った風景のはずなのに、どこか何ともし難い違和感がある。明らかに知っている場所とは違うのに、強い既視感を感じる。違和感と既視感。そんな二つの相反する印象を同時に感じていた。
「目が覚めた?」
不意に横から声がした。横たわったままジョセフが目を向けると、そこにいたのはマレクだった。安堵したような微笑みを浮かべ、ジョセフの顔を覗き込むように首を傾げて立っている。
「マレク…」
彼はずっと前からそこに立っているようでもあり、また同時に今この瞬間にそこに現れ出たかのようでもあった。
「良かった…無事だったんだな」
ジョセフは手を伸ばし、傍らに立つマレクに触れようとした。だが動かそうとした手は重く、ピクリとも動かない。いや、体全体が鉛のように重かった。
「無事? 無事なわけないじゃない」
マレクは手を伸ばし、ジョセフの頬をそっとなでた。だがその笑みはどこか不吉な影が漂い、頬をなでる指も冷たい。
「だってもう、僕は生きてないんだからさ」
その途端、マレクの顔が歪み、ボロボロと赤黒い肉塊が頬から、鼻から、額から崩れ落ちた。手指の肉も腐り落ち、ジョセフの顔の上にボタボタと腐った肉片が降り注ぐ。
「……! ………あ…ああ……!」
そしてマレクの身体そのものも赤黒い肉片と化して崩れ落ちる間、ジョセフの身体の上や床に積もった肉片が蠢き、容積を増していきながらまるで一つ一つが意思を持っているかのように動き出し、再び集まりはじめた。肉片は集まりながら肉塊となり、やがては伸縮性と弾力性を持つ触手となり、ジョセフの顔に、手に、足に、胴に次々と巻き付いていく。
「……やめろ……やめてくれ……」
冷たく粘るような感触に怖気立ち、今更思い出したように動けるようになった手で触手を払おうとするも、巻き付く力は強く、両手はあっさりと頭の上で一纏めにされてしまった。
―――いやだなぁ。そんなに僕の事嫌い?
どこからともなくからかうような笑いを含んだマレクの声が響くと同時に、ジョセフの腹の上に肉塊が集まってきた。蠕動する肉塊は人間ほどの大きさになるとごぼりと波打ったかと思うと変形し、引き攣ったような笑みを浮かべるマレクの顔を形成した。次いで頭と、胴体が肉の海の中から生まれ落ちる。その顔や一糸纏わぬ上体は元の人間のままだが、肘から先と膝から下はジョセフの身体を覆い尽くす肉塊と同化している。クスクスと笑いながら、肘から更にもう一本の触手を伸ばしてジョセフの頬を撫でる。ぬらぬらとした触手に撫でられるおぞましさに思わず顔を背けようとするも、顎を掴まれて無理矢理マレクの方を向かされる。
「そんな声出されたら、もっと聞きたくなるじゃない」
マレクが言うと同時に、更に二、三本の触手が周囲から伸びてジョセフの上着のボタンを引きちぎり、肌を露にすると胸の突起に吸い付くようにして弄ぶ。その湿った感触に嫌悪感と快感を同時にかき立てられ、思わず声を上げてしまう。
「……っは、あああ…」
「淫乱なんだね。ジョセフは。こんなことされても感じてるんだ」
嘲り笑いを浮かべながら、マレクは次々と触手を繰り出してジョセフの身体を弄び、引きちぎられた上着を紙でも破るようにジョセフの身体から剥がしていく。
「…っ、違うっ…」
払いのけようにも両腕は頭の上で一纏めに拘束されてしまっているので、身をよじることしかできない。その姿は却って扇情的なだけで、マレクの嗜虐の心をくすぐるだけだ。
「何が違うのさ。こんなにしちゃって。ジョセフはうそつきだ」
嘲りながらすっかり勃ち上がったの胸の突起を触手の先でつつくと、ジョセフの口から微かなため息が漏れる。
ひとしきり反応を楽しんだ後、マレクは触腕を引っ込め、両腕は元の手に戻った。その手でジョセフの下衣に手をかけ、ズボンの前をくつろげると半ば勃ち上がったモノを引き出した。
「ん、うん…」
そして彼はジョセフのモノをそのまま口に含むと、吸い上げなめ回しはじめた。
「な、何を……やめろ!」
「いちいち五月蝿いなあ。少し黙っててくれないかな」
そう言うと、太い触手がどこからともなく伸びてきて、ジョセフの口内に侵入した。慌てて口を閉じても触手は無理矢理歯列をこじ開け、喉の奥まで蹂躙する。
「んぐ…っう…」
噛み切ろうにも弾力性のある触手は頑丈で、抵抗などおかまい無しに彼の口内で暴れ回る。息苦しさと嫌悪感に、ジョセフの目に生理的な涙が浮かんだ。
「…んく、ちゅ……はぁ…ジョセフの…すごい大きくなってる……。口に入りきらないよ……」
その間にもマレクは巧妙な舌遣いでジョセフを責め立てた。口には到底入りきれないので、竿を横から銜えつつ、手で入りきれない部分をしごき上げる。
涙にかすんだジョセフの目に、マレクの姿が映る。一糸纏わぬ姿でジョセフの太腿の上に跨がり、上気した顔にうっとりとした表情を浮かべ、一心にジョセフの雄を愛撫する姿が。こんな状況でも、いやこんな状況だからこそジョセフの雄には熱と血が集まり、痛ましいほどに怒張する。
このままでは達してしまう。あわや出る、と思った瞬間、マレクの両手が雄の根元をぎゅっと締め上げ、せき止める。
「ふうっ、んぐううっ!」
「誰が出していいって言った?」
ジョセフのモノを握ったまま、口を離したマレクが冷たく言い放つ。上も下もせき止められ、行き場を失った快楽がジョセフの中で暴れ回り、彼を苦しめる。悲鳴を上げようにも口も触手に塞がれているためくぐもった悲鳴しかあげられない。
「心配しなくても、たっぷりと出させてあげるよ。僕の中でね」
満足げな表情で、すっかり膨張してもはやグロテスクな大きさにまで成長した肉棒の先端に軽く口付けると手を離し、ずるりと音を立てて下半身も肉の海から引き抜く。そしてジョセフの腰の上に跨がり、いきり立った欲望を後ろの穴に押しあてる。
その様子を見て、ジョセフは目を見開いた。こんなものを受け入れては、マレクの小柄な身体など壊れてしまいそうだ。
だがマレクは構わず、ゆっくりと腰を落としていく。落としていくにつれてマレクの内壁の肉はジョセフを戒める触手のように絡みつき、それだけで達してしまいそうな快感を与える。
「まだイっちゃ駄目だよ、ジョセフ」
マレクは婉然たる笑みを浮かべながらゆっくりと腰を下ろしていき、やがてジョセフのものは全てマレクの中に収まった。
「ふふ、全部入ったよ」
頬を上気させ、満足げに呟くと、ジョセフの口を塞いでいた触手を引き抜いた。そしてそのまま上体を倒すと、酸素を求めて喘ぐジョセフに深く口付ける。
「…んっ、うう、っはあ、はあ……」
[76] 640/wald (2008/08/25 Mon 01:57)