ベッドサイドのテーブルにいつも置いている煙草を探す。そこでやっと、ここが自室ではないことに気がついた。寒い。ヒーターをつけているというのに底冷えする部屋、お仕着せの間取りをそのまま使っているのが、いかにも相棒らしい。ベッドの下に脱ぎ散らかした上着のポケットから、探していた煙草とライターを拾う。
「おい」
アルが一服に火をつけようとしたとき、ブラッドの声がそれを制止した。
「煙草、吸うなら、換気扇の下な」
匂いとヤニが部屋についちまうだろ。と、そういえば何度か言われた気がする。しかし…背中にまとったぬくもりからは離れがたい。
「一本だけ…」
「灰皿、ないだろう」
「携帯用なら持ってるぜ」
「…まったく」
半身を起こしたブラッドが、アルの手からひょいと煙草を奪う。いつものように。
「火も貸そうか」
「ああ」
言葉にしない、けれどそんな合図をどれだけ持っているのだろう。長い付き合いだ、とアルはその奇妙な関係をどこか気に入っていた。
使い古したイムコ製のライター、小さいが火力は素晴らしく、支給品にしては気が利いている。まずは自分の煙草へ火をつけ、そのまま赤く燃えている先をブラッドが銜えている煙草へ差し出す。
「お前、煙草替えたか?」
「おなじダビトフだぜ」
「………軽い」
人の煙草にけちをつける。そう言われてみれば確かに軽い。スタンドの灯りを少し近づけてみるとパッケージにライトと書いてあった。
「よく分かるな、ブラッド」
「…お前の舌は雑巾並みだ、アル」
携帯灰皿へと煙草を押し付ける。時計の針は3時20分を差している。ブラッドはヒーターの利きが悪いと文句をいいながらベッドから降り、ミネラルウォーターを片手にキッチンから戻ってくる。
「明けの勤務まで、あと5時間はあるな…」
「ああ、少し寝る」
背中合わせで使うシングルは狭いが、寒い夜には丁度いい。
「…シャワーは戻って、自分の部屋で使えよ」
「なんだよ…」
「…下着までシェアしたくないだろう」
気がつけば、0時も回って新しい年が始まっている。
[388] hanage3 (2009/01/08 Thu 20:20)