(銀黒)僕の神様(最後の罪のオマケ)

最後の罪の後日談。
ジョセフの幸せな結末を一生懸命考えた結果、姿は15のころに戻るのがいいんじゃないかと思った。そして眼鏡ザーギンに甘えるがいいよ。とか。

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 まぶたの裏側に光が戻る。暖かい手が頬に触れる感触、懐かしく優しい声が、何度も名前を呼んでいる。
「ああ、やっと起きた」
まぶしく落ちてくる木漏れ日、どこか懐かしい景色、そして自分の名前を呼ぶ声の主の姿に驚いた。
「ジョセフ…ここは」
「ああ、俺もわからない」
まだあどけなさの残る顔が微笑む。ジョセフの姿はあの日、出会ったころの15のこどもだった。
「ずっと、こんな感じ。芝生と花壇と植え込みと、他には何もないんだ」
すっと彼の指が示す方向を見る。ジョセフがそう言うように一見したところ何もない場所のようだ。だから、ここがどこか分からないとジョセフが言う。
「気づいたらここにいたんだ、ザーギンも」
困ったような顔で笑う。15の姿にジョセフの心は、大人のままで残っているようだ。きっと、いや多分、とザーギンは確信を深める。それはジョセフだけではなく、自分自身も。
「ジョセフ、君はずいぶん可愛らしい姿にもどっているのだけれど」
「ああ、ザーギンも眼鏡だ。あと髪も長くはない」
そうかとザーギンは呟く。一人分の距離を置いてジョセフが、ザーギンの隣へと膝を抱えて座る。
「ここはきっと…」
ジョセフは口ごもった。
堕ちるのは、煉獄かと思っていた。自らの魂は救われることはないと、思っていた。けれどもこんなにも暖かな場所で目覚めて、戸惑っているのだろう。何もないけれど、こんなにも平穏な場所へたどり着いたことを。
「ああ、私もジョセフと同じことを考えていたよ」
そうだね、不思議だと。ジョセフの頭を撫でる。肩が一瞬震えて少しだけジョセフは、ザーギンの手に身構えた。ザーギンと同じく記憶は、そのまま残っているのだ。刺された胸の痛みをまだ、きっとジョセフは覚えているのだろう。それでもジョセフは、ザーギンに微笑みを差し出し、両手でザーギンの右手を握った。
「…よかった、またザーギンに会えて」
木漏れ日がキラキラとジョセフを明るく照らしている。
「神よ、感謝します」
額に手をかざし頭をたれる、ザーギンもジョセフのそれに倣った。感謝します。他の言葉も美辞麗句もなく、ただ感謝しますと、心から祈りを捧げたいと思った。こんなにも暖かい場所に彼を導いてくれて、そしてそこでもう一度出会うことを赦されて。
「…荒れた手だ」
取ることを赦された手は、がさがさとしていて、硬くて、少し冷たい。あのころと少しも変わらないジョセフの手を、今度はザーギンが両手で握る。
「いや、これは…いつものことだ、いつもこんな…」
ジョセフの頬が赤く染まる。
「すこし冷たい…ジョセフ、ありがとう」
こんな私のために祈ってくれて…とジョセフの手に唇を寄せる。
「それは…自分のためだ…俺は…」
ジョセフが立ち膝をつき、ザーギンへと両腕を伸ばす。一人分の距離は縮まり、その腕はおいでというようにザーギンを誘う。
「失いたくはなかったんだ…」
木々から落ちてくる光が、ジョセフの両腕に集まっている。キラキラと、それはまるで祝福の光に似ている。
「誰かが…覚えていてくれたらいいと思っていた…それでも本当は誰かを失うのはもう…」
光の源へとザーギンは頭を寄せた。そこにはジョセフの腕と暖かな体温があった。ふっと、彼の胸にずっとあったロザリオがなくなっていることに気づく。ああ、やっぱりここは…犯した罪と地続きの世界、けれど。
「…感謝します」
ジョセフの腕の中、ザーギンは祈った。
「僕の神様、ジョセフ…」
恥ずかしそうにその言葉を聞いているジョセフに、何度も祈りを捧げる。そしてジョセフは違うと首を振る。
「俺は…神様なんかじゃない」
「…どうして。君が神様じゃなかったら、天使かな、天使にしか見えない」
ザーギンはジョセフの背中をそっと抱き返す。その背中に羽根がないか、確かめるように抱きしめた手で背中を探す。
「…天使でもない」
ふわりとジョセフがザーギンの膝へ降りてくる。瞳を閉じて、やがてそっと唇が触れる。
「…こんな天使がいるわけが、ないんだ」
困ったという顔をしていた。触れている手からじわりと暖かさではなく、もっと激しい熱が伝わる。
「ジョセフ…」
声が震えた。伝わったものが何か、すぐにわかったので、ザーギンは驚いて、いつだってそれを欲しいと思ってきたのは、罪深きは自身であったと思っていたから。
「…俺は、ザーギン。俺はたくさんの罪で手を汚した」
「だから、そんな自分に触れて、僕が穢れたと?違うよ。ジョセフ。僕が穢したんだ。真っ白な君を…奪って、めちゃくちゃにして、それでも君は…」
…受け入れて、赦して、そして抱きしめてくれた…声にならない言葉で呟く。ジョセフの乾いた指先がたどたどしく、ザーギンの唇を辿る。その指先が、つたない言葉で欲しいと、くちづけが欲しいと、伝えるように。
「優しいジョセフ。君に赦されるのは…これで2度目だよ」
ジョセフの手を真似るようにザーギンは、彼の唇に触れた。ジョセフの指と同じ方向へ先を動かす。
「ザーギン、俺は…」
ジョセフが言おうとしているその先の言葉を促すように。
「聞かせて…ジョセフ」
ゆっくりとやがて確かな言葉で、ジョセフが小さくザーギンの耳元へ囁いた。
「…ただ、愛し合いたいんだ」
「ああ」
「…ザーギン、キスして」
「ああ」
彼の言葉ひとつひとつに頷く。空から溶けてしまいそうなほどの眩しい光が、この不思議な場所を照らしている。ジョセフの胸に顔をうずめると優しい花の香りがした。言葉はとぎれながら続いている。
「…ずっとこうしてほしかったんだ」
「ずっとこうしていよう」
「…ザーギン」
「ジョセフ、僕の神様」
ジョセフの手のひらに落ちる木漏れ日が、そこに悪魔の紋章はすでになく、まるで聖痕のようだと、ザーギン思った。

[368] hanage3 (2008/11/22 Sat 22:41)

[363] (銀黒)最後の罪(捏造最終回) hanage3 2008/11/14 Fri 01:07res
┗[365] 自己レス hanage3 2008/11/14 Fri 09:18
┗[366] Re^2: (銀黒)最後の罪(捏造最終回) 九郎 2008/11/15 Sat 07:09
┗[367] Re^3: (銀黒)最後の罪(捏造最終回) hanage3 2008/11/15 Sat 13:52
┗[368] (銀黒)僕の神様(最後の罪のオマケ) hanage3 2008/11/22 Sat 22:41
┗[369] ・゜・(ノД`)・゜・。 九郎 2008/11/23 Sun 07:24
┗[370] Re^6: (銀黒)最後の罪(捏造最終回) hanage3 2008/11/24 Mon 06:54
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