(銀黒)最後の罪(捏造最終回)

最終回を脳内変換するとこうなりましたが、あくまでも私の脳内の産物でして…orz
多分、ちがうなぁと思われる方がほとんどではないか、と。
ザーギンとジョセフしか出てこないです。すみません。

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 ……きれいだ。と、ジョセフは呟いた。
 ザーギンのとなり、足元へ膝を折りその手は硬く結ばれ口元から小さな祈りの言葉が聞こえる。教会で育てられたジョセフが、敬虔な信徒であることは疑うこともなかったが、目の前で祈りを捧げる姿はただ純粋で、しばらくその姿にザーギンは目を奪われていた。サーシャの金色の髪より白く細い指先よりも、よく似た姉弟の目元よりも…ジョセフの浅黒い肌、バラバラの黒い髪からのぞく首筋に。
「ジョセフ、お祈りは終わったかい」
そっと、首へと手を伸ばす。チリッと刺すように指から伝わる。
それは神の前で覚えてはならない欲望に違わなかった。
「うん、すごいな。ザーギンはこんな立派な教会でお勉めをしてるのか」
ステンドグラスのはめ込まれた天窓を見上げているジョセフの髪を撫でる。誘惑の蛇がザーギンの足元へと絡みつく。やがて抵抗する意思すらもぎ取られるように腕が、指先が、ジョセフの顎を捉える。唇をなぞり、口付ける、軽く幾度か啄ばみ、舌を差し入れる。ジョセフの顔を盗み見ると、瞳は閉じることなく大きく開かれたまま、ザーギンへと向けられていた。驚きのあまり抵抗する間もなかったのだろう。
可哀想に…可哀想なジョセフ。
「…あまり歌は上手くないんだ。だからね」
かわりにオルガンを弾くんだよ、と。ザーギンは唇を離し言葉を続けた。
ジョセフの見上げている神を同じ高さから見つめる。
私達は神の前で最初の罪を犯したのだ、と。

 白く舞うのは、雪。
 互いの剣を撃ち合う音が、荒涼とした大地に溶けていく。ただひたすら防戦に回る所作は、やはりジョセフに違いないと確信する。片方の角も折れたまま、腹部には黒く傷跡が残る脆弱な悪魔、先ほどまで、彼の体にあった違う気配は消えている。
 踏み出す足元にゆっくりと落ちる雪の結晶を見る。すべての音は消え、色すらも消え去り、その中で青白い光だけが揺れている。ゆっくりと青白い炎の中から、こちらへと歩み寄る。その足元にも落ちる雪が、命の終わりを示すように解けていく。
「さあ、我々の主の下に帰ろう。主は、我々を引き裂かれては癒し、我々を打たれては傷を包んで下さる」
穏やかに声が、ザーギンの間合いへとジョセフが踏み込む、神の言葉を携えて。攻撃の意思はないことは明白だった。なんという甘さ、そしてその傲慢さ、ザーギンは剣を収めた。
「我々は、主を知ろう。主を知る事を追い求めよう。主は曙の光の様に、必ず現れ、降り注ぐ雨の様に、我々を訪れて下さる」
ジョセフの語る、聖書の一節は、ただ神を思い神を信じることのみを説く。愚かなる信仰にこそ救いをと唱える。ジョセフにこそ相応しい、彼の生い立ちを知れば誰もがみな思うだろう。
 これも神の意思かとザーギンは天を仰ぐ、どちらの神が正しいのか、ジョセフか、否。私は罪を背負い、世界を終わらせねばならない。悪魔へと転化したのはそのためなのだから…いつかはこの時が来ると分かっていた。どこかで望んでいたのかもしれない。この世界に二人だけ、そしてどちらかが選ばれることを。
 収めた剣をもう一度振り上げる。ところどころに枯草の巻きつく柱だけを残した廃墟の、床だった部分に触れた足から冷たさだけが伝わる。動くもののない静けさが支配する世界で、たったひとつ雪の結晶だけが、わずかに光を放ち揺れている。
 攻防は永遠の一瞬、切っ先をわずかに逸らし、牽制された隙に懐に差し込む。剣はジョセフのあばらを砕いたはずだ。そして胸へ、けれど剣は止まっている。ジョセフが切っ先を捕らえて、握りこんだ部分から砂となる。
 ジョセフの赤い目が見つめている。何かを乞うような目ではなく、何かを悟ったような目が、ザーギンを捕らえていた。幾度となく出会い、幾度となく別れ、ジョセフはザーギンのもとへひとつの答えを持ってやってきたのだ。
「帰ろう、主の下へ…ザーギン」
黒い悪魔の姿のまま、ジョセフがザーギンの前へ手を伸ばす。ジョセフが飲み込んだサーシャの願いは、過ちを正しすべてを無に帰すこと。ジョセフを取り巻いていた青白い炎は、荒れ果てた地へと飛び、やがて大地を焦がす。
「…デモニアック達はお前の支配を解かれた」
それはザーギンを凌ぐほどの力が、ジョセフに宿ったことを意味した。それでもジョセフはただ、ザーギンへと手を差し出すだけ、その手をザーギンがとることを祈り、信じて待っているのだろう。
 言葉のとおりにデモニアック達が、炎の巻く大地へと膝をつく、そのさまは祈りを捧げる姿に似ている。
「そうか、君は…ならば私を倒し君が事を成せばよかったものを……君にはもう時間がない」
ジョセフの飲み込んだイシスが、彼の滅びを司っている。
「弱い者へと向けられる力など、真の力ではない」
「私より強くなった君は、私に力を使わないと、ならば試させてもらおう。しかし、私に返り血を浴びさせるつもりなら無駄だ。君の血は私に触れる前に気化してしまう」
ジョセフに残された時間はわずかだろう、けれど…ザーギンは新たに剣をとった。剣は一本だけではない、イシスなぞにジョセフを失わせるなど、許せることではなかった。ずっとこの時間を待ちわびていたのかもしれない。自分の手で、ジョセフの手で、どちらかが、どちらも、私達は終わらなくてはならないと、ずっと思っていたのだ。
 次の攻撃でジョセフは、きっと一寸も動かずザーギンの刃を受けるだろう。
「主が我々を裁かんとしているのならば、主のために私が手を汚そう…君が出来ないのなら…」
今度は確実に彼の心臓を狙った。突き刺す腕に力がこもる。
確実な手ごたえが剣から、腕へやがて心臓へと伝わる。
「もとより私は罪人。罪を背負うことにためらいは…ない」
剣は胸を貫き、肩から切っ先を貫通させている。膝から崩れ落ちるように、ザーギンの胸へすがるように落ちるジョセフの腕を、ザーギンは肩で支えた。ジョセフの血が剣を伝い地に落ちていく。それでもまだ致命傷ではなく、ジョセフにはまだ息があった。
「…ただ…伝えたかった…お前がなくしたものを」
ゆっくりと化身を解かれたジョセフが、切れ切れに言葉をつむぐ。
零れ落ちる血で唇を赤く染めて、それでもまだ何かを伝えようと蠢く。
「残念だよジョセフ。それは自ら捨てたものだ」
初めから自分は持っていなかったのだと、ザーギンは思った。ジョセフの持っている愚かしいまでの…だからこそ自分に託されたのだ、と。
「さようなら、ジョセフ」
まだ光を失ってはいない赤い瞳をもう一度だけ見つめる。あの日神へと向けられた、無垢なる魂の。ふっとジョセフの腕が、ザーギンの体を抱きしめる。もう力のない腕が優しく、そして暖かく。
「…どうして伝わらないのだろう、ザーギン、俺は…」
頬へ幾筋、涙は伝う。
「…ただ、愛したいのに…それだけで人は生きていけるのに」
ジョセフの口から多量に溢れ、血は流れ続ける。
「………それが、人の愛なのだろう、ジョセフ」
主の言わんとする愛ではなく、か細く、確かではない、人の愛。
裏切られ貶められて、失い傷つけられても、なお、ジョセフが信じ続けている人の愛。
 どこかで違えた道は、けして交差することもなく終わるのだ。このままジョセフを失うこと、それを悲しいと思う心が、まだあることを初めて知った。
 青白い炎が揺れる荒野を見渡すと、哀れな悪魔達が解けていく様が見える。それはジョセフの命を依り代とした炎、やがてザーギンの化身も溶かしていく。尽きかけた炎がザーギンの膝で揺れている。
 …人の子が…栄光を受けるときが…来た…と。
小さくうわごとのようにジョセフが呟いた。まるでそれを知らなかったというように、そしてやっとわかったのだというように。十字架に磔られたのは、ザーギンではなく、ジョセフなのだ。
 …そうか、これがイシスの力…
それが終焉と再生の女神イシスの真の姿、そしてサーシャの残した最後の奇跡だった。
「一粒の麦が地に落ちて、死ななければ、それはただの一粒のままである、しかし、もし死んだなら豊かに実を結ぶようになる…」
ああ、とジョセフが頷いた。
語り継ぐのは誰だろうか。やはりあの姉と弟なのだろうか。
「人の子の罪を背負って…ともに行こう」
ジョセフをかろうじて支えていたザーギンの膝が折れる。ザーギンの時間は、ジョセフに支配され、ともに終わりのときを迎えるのだろう。血でぬめるジョセフの手がザーギンに触れ、その唇を捕らえた。
「…ジョセフ…」
言葉の代わりに最初に犯した罪を重ねる。
熱く、甘く、互いの血が混ざる。
赤く赤く互いを染めていく。幾度も。

…いつか、主の前で裁かれるまで。

[363] hanage3 (2008/11/14 Fri 01:07)

[363] (銀黒)最後の罪(捏造最終回) hanage3 2008/11/14 Fri 01:07res
┗[365] 自己レス hanage3 2008/11/14 Fri 09:18
┗[366] Re^2: (銀黒)最後の罪(捏造最終回) 九郎 2008/11/15 Sat 07:09
┗[367] Re^3: (銀黒)最後の罪(捏造最終回) hanage3 2008/11/15 Sat 13:52
┗[368] (銀黒)僕の神様(最後の罪のオマケ) hanage3 2008/11/22 Sat 22:41
┗[369] ・゜・(ノД`)・゜・。 九郎 2008/11/23 Sun 07:24
┗[370] Re^6: (銀黒)最後の罪(捏造最終回) hanage3 2008/11/24 Mon 06:54
┗[371] 泣きました yotsubishi 2008/11/24 Mon 12:56
┗[372] Re^8: (銀黒)最後の罪(捏造最終回) hanage3 2008/11/24 Mon 22:02