「まったく驚いたよ」
「…」
なぜ今、ヘルマンと白馬は真剣にケンカをしているのだろうか。
「私がジョセフに、先程の戦いで君達に助けてもらったお礼は言わなくてもよかったのかい?と言ったら、ヴァイスがジョセフを乗せたまま走り出してしまったのだから」
「…」
なぜ今、自分はザーギンと二人で人VS馬の観客になっているのだろうか。
「ヴァイスは真面目で律儀な子だからね」
「…」
ジョセフをしがみつかせたまま戦っているのは、白馬へのハンデなのだろうか。
「アンドロマリウスは盗まれたものを取り戻す正義の悪魔だから、ヴァイスが君を盗んだ件は彼に任せたけど、ジョセフに喧嘩の仲裁が出来るかな」
「…」
否、ジョセフは降りるに降りれなくなったのだろう。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。なんたって、ジョセフは私を凌駕した存在だからね」
「…」
なぜヘルマンはジョセフに当たる事を考えず攻撃を繰り出せるのだろうか。
「そろそろベアトリスが迎えにきてもよさそうなんだけどねえ」
「…」
色々と哀しくなってきて、ゲルトは両手で顔を覆いうなだれてしまう。
「ほら、ちゃんと見てあげなきゃ。ヴァイスも彼も君のために戦っているのだから」
「…」
顔を上げようとしないゲルトにやれやれと溜め息をつき、ザーギンは決闘とも言える戦いを眺め、一人呟いた。
「これはどちらも負けられないだろうね」
「負けたら自分は“当て馬”になってしまうのだから」
(おわり)
[343] 独逸超人 (2008/10/30 Thu 23:31)