交叉 赤と白(エロ無)

エロ無しで赤視点の話。
あんまり相手の事を考えない白
うだうだ物を考える赤
そういう解釈が好きじゃない方は読まない方がいいと思うよう。

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その時には理解できず、納得がいかなくとも、時間が経ったから分かることがある。
俺は、ゲルトになりたいとも、ゲルトに勝ちたいとも思っていたわけではない。
………いや、…違う。
当初は勝ちたいと思っていた。思っていたさ。
だけど蓋を開けてみれば、現実は…。自分ではどうやっても…。
そう思うように、そう考えるようになったという方があっているだろう。
個人では適わない。なら、せめてチームでは、と。
抜くことは叶わないとしても、追走し、追い付き、並走したいと思っていた。
そうだ。仲間として勝利を共に分かち合いたかったんだ。
…それでいいと思っていたんだ。


-交叉-


自分以外のエンジン音に、前方へしか向いていなかった意識が、引き戻された。その脇を同じチームの新人がすり抜けていく。
くそ…まただ。
マシューが有望株だと太鼓判をおしている新人。
その後、抜き返すこともかなわずそいつの尻を見続ける状態のまま、ピットへとバイクを向けた。エンジンを止め俯く中、視界に革靴が入ってきた。場違いなそれを不思議に思い、視線を上に向けた先にはチームの要であるゲルト・フレンツェンが佇んでいた。
今日は休みの日じゃなかったのか?
彼が己のこめかみを軽く叩いてくる様から、メットを外せと言っているのかと理解し、ヘルメットを脱ぎ、視線を合わせた。ゲルトの唇が動き、言葉を発してくる。
最初、何を言われているのか、分からなかった。
ぽかんと唇を開き、ただ瞬きを繰り返す俺に、ゲルトは、再度同じ言葉を一言も違えることなく伝えてきた。
意味を理解した瞬間、手からメットが滑り落ち、乾いた音をたてながら、アスファルトの上を転がっていった。
薄々は思っていた。
遅かれ早かれの違いで、解雇とはいかないまでも、何かは言われるだろうとは。
勝てない奴の面倒をいつまでもみる奇特なチームなんてないだろう。
でもなんで、ご丁寧にゲルトから…。
分かったのか?というように、首を傾げているゲルトに、条件反射のようにただ頭を上下に振った。マシンを整備の担当に預けて、足早にロッカールームへと急ぐ。
気を利かせてくれたのか、ただ単に運がよかったのか、今、ここには俺しかいない。
そう思ったと同時に、ロッカーの扉に拳を叩きつけていた。
部屋から残響音が消えた頃を見計らったのか、それともただの偶然か、軽いノック音が、と思ったと同ほぼ時に、ゲルトが部屋に入ってきて、此方に顔を向けてきた。
探してる相手は俺か?まだ何か言い足りないのか?いぶかしむ姿を気にすることも無く、真っ直ぐ視線を合わせてくる。
なんだってんだ、ホンと…。今は、そんな余裕持ち合わせていないのに…。
おそらく此方から切り出さない限り黙ったままなのだろう。こっちの機嫌が悪そうとみるといつもそうだ。
だからといって、さすがに…。
それでもゲルトから声をかける気配はなくじっと此方を見つめたままだ。
渋々こちらから
「何か用か…?」と声をかけた。
それでもまだ反応はなく。
いい加減少しはと、睨み付けるヘルマンを気にすることも無く、漸くゲルトが淡々と言葉を口にしてきた。
「自分でも自覚はあったろう?」
初っ端から、それか…。
そんなもんあったさ、俺だってそこまで馬鹿じゃない。
「だから、なんだよ」
「ああいう場で伝えたから決心がつきやすかっただろう?」
ああいう場でだって?嫌な考えだけが脳裏を駆け巡っていく。
「それって…」少し掠れた声で尋ねる。
「あの場に居た他の連中の反応から、皆、同じような事を考えているんだと分かっただろう?」
「なっ…?!あんた、本気で言ってるのか?」
普通あんなのは…。
「冗談で言うと思うのか?」ゲルトの表情から、冗談ではないのだと感じはした。
その表情や雰囲気からゲルトにとっては何か確固たるものがあるのだろうとも思う。
それは…。
脳内に『聞くな』という警鐘が響く。
それでも聞かずにはいられない。
「何を思ってあんな事を、あんな場所で言った…?」
「そんなに拘るところか?」
意外だとでもいうような表情。
人一人の人生が関係しているだろう?違うのか?
「こだわったら…、おかしいのか?」
「そうだな。寧ろ気にするべきなのは勝負へのこだわりじゃないのか?」違うかと目を合わせてきた。
「勝負…?」
いや、勝負なら俺だってこだわっている。
ヘルマンの怪訝そうな表情に、ゲルトの表情が険しくなった。
「俺がいつサポートに回れと言った?」
「……それは」二の句が継げないヘルマンを慮る事もなく言葉を続ける。
「そういう面から、お前よりもイーゴの方がセカンドには相応しい。あいつはそういう気を遣ってはこないからな」
口を開きかけたヘルマンに対し、
「なによりお前は勝負への貪欲さが感じられない。レースは慣れ合いじゃないんだ」説いてきた。
「あんた、俺の何をわかって…」激昂を抑えるべく爪が食い込む程拳をきつく握りしめる。
「それではレースに勝てない。違うか?」
チームで勝ちたかったからこそ、だ。咽喉まで出かかったが、ゲルトがまだ話そうとしているのに気づき、続きの言葉を待った。
「それに、そんなので勝利を納めたとしても達成感に欠ける」

なんだって?

聞き違いをしたのかと思った。
「己の力で、ものにしたいと思わないか?」
だがその言葉で、聞き違いではないのだと否応無く実感されられる。見開いた先にはあるのは、それが絶対だと自信に満ちた男の顔。
なにも思いつかない。言葉が湧いてこない。
ただ表情を見られたく無い一心で俯き、再度、拳をきつく握りしめ、ゆっくりと口を開いた。
「悪いんだけど…さ。俺、荷物を…」
「あぁ、邪魔をしてすまなかったな」
「いや、構わねぇ」
ヘルマンと顔を合わせること無く、そのまま部屋を立ち去っていく。
眼前が軋み吐き気がした。

俺がやっていた事は無駄だったのか…。そんな……。

乾いた床に透明の水滴が落ち、微かな嗚咽のみが部屋に響いた。

[335] イヲリ (2008/10/28 Tue 18:20)

[335] 交叉 赤と白(エロ無) イヲリ 2008/10/28 Tue 18:20res
┗[336] 空気の読めない男(死)最高〜★ はんちょ 2008/10/28 Tue 19:18
┗[337] おおう! イーゴ 2008/10/28 Tue 22:11
┗[338] 本編じゃ無理だものね G779 2008/10/29 Wed 21:59
┗[339] コメントありがとうございます。 イヲリ 2008/10/30 Thu 12:20
┗[351] Re^5: 交叉 赤と白(エロ無) 独逸超人 2008/11/01 Sat 02:29
┗[358] コメントありがとうございます イヲリ 2008/11/07 Fri 12:39
┗[360] Re^7: 交叉 赤と白(エロ無) hanage3 2008/11/07 Fri 22:03
┗[361] コメントありがとうございます イヲリ 2008/11/11 Tue 15:26