(白赤)スプーンフル(Tシャツver.)

ガレージの奥でほったらかしにされて、彼の愛車はずいぶん機嫌を損ねたらしい。しばらく乗っていないバイクだと、聞いてすぐに出会ったころに彼が乗っていた愛車のことを思った。
「オーバーホールまではいかないと思うが、手伝いに来てくれないか」
 ヘルマンに向けられたゲルトの、他に向けられることのない、らしくない顔。セカンドからサードへの降格の噂は、ゲルトの耳にも入っていたのだろう。
 夢中で追いかけた夢とゲルトの背中、レーサーになって、同じサーキットを走るようになって、同じクラスにも入ったが、それはけして近づいたのではなく、彼の背中はますます遠いものになった。

 入り口から夕陽が差し込んでいる。ゲルトの所有する車やバイクを納めたガレージは広く、その中で長い陰をつくる。彼の愛車はすこしづつ、シートの隙間から入り込んだ砂埃に薄く汚れていた。出合ったころには毎日、新しい火の入れられていたエンジン。やはりバラして埃を落としたほうがいい。バイクに積もった埃を払いながら、ヘルマンはぼんやりとそんなことを思っていた。
 懐かしいなとゲルトが言う。ヘルマンにとっても懐かしい…けれど、遠い景色のように感じる。
「そうだな」
不意にクロスを持つ腕を引きとめられた。そんままそっと肩が引き寄せられる。ゲルトの顔に夕闇だけではない影が差す。ヘルマンが次に言おうとした言葉をゲルトが封じる。
「上着…暑いのか、ヘルマン」
急いですり替えられた話題、ゲルトに言われるまで忘れていた。上着の袖を引っ張られる、腰に巻かれたツナギの上がぱらりと解けた。
「忘れてた。そろそろ着ないとな、冷える」
「そうか、それは残念だ」
ほら、ここ。と、肌に張り付いたヘルマンのTシャツごしに、ゲルトの指が触れてくる。意識させられたそこは、プツリと立って薄い布の一枚ではごまかしきれない。もう着替えるからな。と、牽制する。それでもおかまいなしにゲルトの手はすそから潜りこむ。立ち上がったそれに爪を軽く立てる。Tシャツは捲りあげられ、からかうようにゲルトの舌が這う。
「…ここでやるのか…」
ああ、と頷くゲルトの整えられた前髪に手を伸ばし、紳士然としたオールバックをぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。
「冗談だろ、人が来る」
もっとと、にじり寄るゲルトから後ずさる。ヘルマンの背中は、2000GTの前で行き止まりになった。体を押し戻そうとしてもがく。
「ほっておけばいい」
ツナギのファスナーをおろされて直接触れてくる、いつもより早急で、いつもより荒っぽい。車のシートはよれてずり落ち、ヘルマンの体といっしょに足元へ絡みついている。
「…マジ、冗談になんねぇ…」
ゲルトを押し戻す腕は等閑だ。拒否するつもりもなかった。
「冗談で済ます気はないさ」
 シートごと覆いかぶさってくるゲルトが、視界を遮る。まだ外は明るい。それどころか切れ切れに車が通過する音を聞く。無造作に床に置かれたラジオから、ノイズ交じりにイブニングホットラインと、ニュースを読み上げる声が聞こえる。ここからは屋敷の庭しか見えないが、こんな時間からこんな場所で。
 意識すればするほど、五感が研ぎ澄まされる。広げられた腿の内側の筋肉が震えだすのが分かる。ふくらはぎが緊張する。奥へとゲルトが入ってくる。ゲルトの手で目隠しをされて、それでもそこははっきりと侵入する彼を歓喜して迎えた。
「…ふっ…っ……ぁぁ…はっ…」
漏れはじめる声を大きな手が塞ぐ。数回ほど門の前から呼び鈴の音がする。
「すまない、ヘルマン、デリバリーを呼んでいたのを忘れていた」
シートの中繋がったまま、ゲルトが囁く。
「そのままもどるか、それともここまで探しにくるか」
靴の音が近づく。
「どっちだろうな、ヘルマン」
何度も首を振る。来ないでくれと。しかし、デリバリーは開いているガレージに気づいたようだ。こんばんわ、ゲルト・フレンツェンさん。と呼びかける声も近づいてくる。
「…気づかれ…たら…困る…だろ…っ」
人の気配はますます近くなる。お届けものですと怒鳴る声が、ガレージの外で聞こえる。ガレージの床に置きざりになっていた、ゲルトの携帯電話が揺れている。
「…なに…やってんだろう…な…俺達…」
切れ切れになる息の間に言葉を吐く。
「ああ、そうだな」
いないのか、いないなら帰るぞ、デリバリーの声はやけくそだ。やがて耳に届くのは、ラジオの音だけになった。ニュースはすでに終わりいつのまにか甘い女の声に変わる。
 ゲルトは今まで手加減していたらしい。ヘルマンのもっと体の奥深くに彼の欲望が埋まる。
 大きく視界が揺れる。傾くスプーンフル、もう溢れそうだ。

「ほら、いつまでもすねてないでこっちに来いよ」
ゲルトが頭にタオルを投げつける。ガレージでいたずらが過ぎた。結局デリバリーは、ガレージの前までやってきたのだが…いつまでたっても出てこない主に呆れて帰ってしまった。
「すねてねぇよ、ただ俺は…」
「俺は、何だ?」
「………腹が減った…」
ゲルトの頼んでいたデリバリーは、マトンの旨いレストランのケータリングで、あんな場所でことにおよびさえしなければ、きっと今頃は美味しい食卓についていたはずだ。
「…ひさびさの高級ディナー、食い損ねた…」
「仕方ないだろう、あのときは飢えていたんだ」
ヘルマンの唇に落ちるゲルトのキスが熱い。そのままベッドになだれ込みそうな勢いで、舌が差し入れられる。やわらかく舌先に歯があたる。絡むふたり分の息遣いが聞こえる。長いキス、息継ぎのためにやっとゲルトの唇が離れた。胸を示すゲルトの手。
「ここが…お前を…」
「…じゃあ、俺の腹はどうすんだ」
とっさにヘルマンは訴えた。照れ隠しだ。
それに、このまま2回目がはじまったら、今度はこっちが飢えてしまう。
すこし困った顔をしてサーキットの王様は、食事情の窮状を訴えた。
「冷凍ピザしかないんだ、ヘルマン、作り方わかるか?」
苦笑いをする。ああ、と短く答え、ゲルトの手からピザのパッケージを奪うと、電子レンジにほうり込んだ。

[325] はなげさん (2008/10/22 Wed 20:22)

[316] (白赤)タンクトップorTシャツ(どっち?) はなげさん 2008/10/18 Sat 16:16res
┗[317] (白赤)ガソリン (タンクトップver.) はなげさん 2008/10/18 Sat 16:17
┗[318] Tシャツとタンクトップどっちも!どっちも!! 九郎 2008/10/19 Sun 20:33
┗[324] いっそ着ていないのも捨て難し? はなげさん 2008/10/22 Wed 20:19
┗[325] (白赤)スプーンフル(Tシャツver.) はなげさん 2008/10/22 Wed 20:22
┗[326] (オマケ)じゃ、裸で!!(赤白) はなげさん 2008/10/22 Wed 20:32
┗[327] デリヘルくださーい!!! null 2008/10/22 Wed 22:07
┗[328] …orz はなげさん 2008/10/22 Wed 22:22
┗[329] Re^8: (白赤)タンクトップorTシャツ(どっち?) yotsubishi 2008/10/23 Thu 01:16
┗[330] タンク、T、マッパ!! 九郎 2008/10/23 Thu 18:01
┗[331] エロ祭w イーゴ 2008/10/23 Thu 22:20
┗[332] Re^11: (白赤)タンクトップorTシャツ(どっち?) はなげさん 2008/10/24 Fri 21:08
┗[333] Re^12: (白赤)タンクトップorTシャツ(どっち?) G779 2008/10/25 Sat 20:45
┗[334] Re^13: (白赤)タンクトップorTシャツ(どっち?) はなげさん 2008/10/27 Mon 21:21