注意：赤白好きにはキツイ展開の馬白ターンです
『瓢箪から駒』ならぬ『目を開けたら馬』状態に、ゲルトが困惑したのは当然の事だ。
「えっ？うま??しろ!?あ！うわっ!!!」
事の異変に気付いた時には既に遅く、ゲルトは白馬に押し倒され、体を挟み込むように両前脚を陣取られ、舌で顔中を舐められていた。
「やめっ…うぅ…んん」
口を開ければ口の中まで舐められそうな勢いに、叫ぶ事も出来ない。
逃げる素振りを見せれば、白馬は上着の襟に噛み付いて動きを封じてくる。
両腕を使って抵抗を試みるが、馬面を押し戻そうとしたところで馬の馬力に人間がかなうはずもない。
いっそぶん殴ろうかとも思ったが、白馬はただ顔を舐めているだけで、それは動物なりの親愛の表現かもしれない。
それ以前に人間相手にもむやみに暴力をふるえないゲルトが、動物虐待ともいえる行為に踏み切れるわけなかった。
「ん……ぁ………ッ！」
その間にも白馬の舌は顔から耳を経由して耳の裏に移動し、今度は歯も使ってゲルトの金色の髪を弄び始めた。
噛み切らない程度の力で甘く噛み締め、髪の感触を堪能する。
噛む行為でのみ溢れると言われる馬の唾液が髪をねっとりと濡らし、ゲルトの神経をより過敏にさせる。
何より髪を抑えられてる以上、最初よりも脱出しづらい状況になってしまった。
半端に長い髪がアダになったかと、ゲルトが途方に暮れていたその時。
「ゲルトから離れろ！このケダモノがああああああああ！！」
ようやく状況を把握したヘルマンが、白馬に全体重とゲルトへの思いを乗せたドロップキックをお見舞いした。
「さっきのお返しだ！」
「ァイタタタタタタ」
「だ、大丈夫かゲルト!?」
ヘルマンの助けは嬉しいが、髪をいじられている時に馬に反応を与えられては、髪を引っ張られる痛みに声をあげるしかない。
「おいゲル…!!」
ゲルトの声に気をとられた事と、ドロップキックで体勢を立て直せていない状態だったために、またしてもヘルマンは、怒った馬の蹄鉄蹴りをまともに食らってしまった。
「ぐはっ！」
しかし完全な不意打ちだった一回目と違い、今は相手が馬だという自覚があったため、致命傷を避ける事はできた。
「畜生！てめえ、死んでなかったら死ぬとこだったじゃねーか！」
再び白馬に攻撃を仕掛けようとしたヘルマンの目に飛び込んできたのは、これこそ、死んでなければショック死確定の光景。
ゲルトが白馬にディープキスをされている。
ゲルトが痛みで口を開けたのに気付いた白馬が、すかさずゲルトの中に舌を差し入れたのだ。
しかし馬の舌は大きく、そして長い。
それを人間の口の中へ無理矢理入れようとしているので、ディープキスというよりも舌をくわえさせられているように見える。
いずれにしても、息苦しさから目をきつく閉じ、頬を紅潮させ、口の端から唾液を零すゲルトの姿に、ヘルマンの限界知らずの怒りは高まる一方であった。
「おい…こらてめえ…動物だから何をやっても許されるとか、思ってんじゃねーだろなあ……」
ヘルマンの拳が小刻みに震える。
「ざけんなよ！この強制わいせつセクハラ馬！！！！」
怒りの炎を糧に渾身の一撃で殴り飛ばそうと意気込むヘルマン。
「ぅ…うぅ……」
「ゲルト！」
だが、ゲルトの声がヘルマンを我に返らせ、途中で拳を止めさせた。
動物愛護団体に大目玉を食らうくらい白馬を叩きのめしたいのは山々だが、この状況で攻撃すると確実にゲルトにまで危害を与えてしまう。
「くそっ！」
どうしようもない現実に拳を地面に叩きつけ、溜め込んだ力を拡散させる。
こうなってはもはや見てるだけしか出来ず、頭を掻き毟るしかない自分が腹立たしい。
しかし、見てるだけしか出来ない状況が、ヘルマンにある事を気付かせた。
「！…お前もしかして……ザーギンの!?」
ヘルマンは一度この馬を目視した事がある。
三万のデモニアックの群れと共に、馬に乗って大通りを練り歩く白いコートの男。
その男、ザーギンが乗っていた馬は、麦穂色の長いたてがみが特徴的な白馬。
目の前でゲルトを貪るそれと同じ馬だった。
「…そうか……そういう事か……」
ヘルマンの中で怒りが具体的な形になっていく。
「これはあれか………ザーギンの野郎の仕業かああああああああああああ！！！！」
「失敬だね、私はそんな陰険な事はしないよ」
「なっ！」
少し息を切らしながらも涼しさを失わない声に、タイミングがよすぎるその登場の仕方に、ヘルマンは驚きを隠せなかった。
「ザーギン！それにてめえは…」
「やめるんだ、ヴァイス！」
ザーギンに名を呼ばれ、その存在に気付いた白馬は、ゲルトから舌を抜き顔を上げた。
「ゲホッ…ッ…ハァ…」
息苦しさから解放され、咳き込むゲルト。
「さあ、こっちにきなさい」
ザーギンが呼び掛けるがヴァイスはそれには応じず、ゲルトのシャツの襟をくわえ警戒を解かない。
「…まったく、困った子だ」
膠着状態確定な状況にため息をつくザーギンに、ヘルマンは聞きたい事が山程あった。
「おい、どういう事だよこれは！説明しろ!!」
（つづく）
[288] 独逸超人 (2008/10/11 Sat 01:57)