※全4話中3話まで投下。4話目は完結編になります
――あれ?俺なんで吹っ飛ばされてんだ?――
ヘルマンはこれまで三度、死の間際に人が見る走馬灯体験をしている。
一度目はヘリが墜落した時。
二度目はベアトリスとの戦いの後。
三度目はジョセフの体を借りてザーギンと戦った時。
――ジョセフの体を…そうだ、俺は――
「まったく、世話焼かせやがってあのネボスケは」
ジョセフがザーギンの野望を止めるべく挑んだ最後の戦い。
体内に取り込んだイシスの効果が発動するまでの一時間、ジョセフはザーギンを自分に引き付けておく必要があった。
しかしジョセフが途中で倒れたため、死の世界から成り行きを見守っていたゲルトとヘルマンが、それぞれ異なる理由でジョセフの体を借り、ザーギンと戦った。
さすがに最強の融合体と思われるザーギンには手も足も出なかったが、それでもジョセフ復活までの時間稼ぎには成功。
力を使い果たした二人は現在、ゲルトは天を仰ぐ形で、ヘルマンは地に俯く形で、力なく宙を漂っていた。
「大体、なんで俺がアイツのために死ぬ程体張ってんだか」
「彼女のためじゃないのか?」
「いや、そうだけど、あの時はその…」
確かにアマンダのために、愛する彼女が生きる世界のために戦ったのは事実だ。
だが同じくらい、もしかするとそれ以上に彼を突き動かしたのはゲルトの思い。
ゲルトの、恩人ジョセフへの真摯な気持ち。その気持ちの全てを自分へと託した、自分への絶大な信頼。
特にゲルトが自分を頼ってくれた事は、サーキットの一件以来ずっと「ゲルトの力になりたい」と思っていたヘルマンにとって、どんな愛の言葉よりも心踊らせるものであった。
ただし、思わず口籠もるあたり、本人を前にしては死んでも言えない事らしい。
「と、とにかくだ。アンタの頼みでわりに合わない事をさせられたのは事実なわけだし…」
「ヘルマン?」
唐突に、ヘルマンは右手でゲルトの右腕を捕まえ、ゲルトを引き寄せた。
「それなりのご褒美はいただかないとな」
ゲルトと向かい合わせになる形を作ったヘルマンは、今度は右手でゲルトの顎を掴み、少しだけ持ち上げる。
「…やれやれ」
先程の会話もあってか照れ臭さを含みつつ、それでも満面の笑みのヘルマンを目の当たりにして、ゲルトが“ご褒美”を断れるわけはなかった。
否、最初から断る気はなかっただろう。
「好きにしろ」
苦笑いを浮かべて、それからそっと目を閉じる。
こういう時のゲルトの苦笑いは承諾の合図だと、ヘルマンは分かっていたから。
「それじゃ、遠慮なく」
いただきますと心の中で呟いて、ヘルマンは唇をゲルトのそれと重ね合わ……
ヒヒーン
「ヒヒーン?」
――思い出した――
――俺は蹴り飛ばされたんだ――
――人の恋路の邪魔なんかしてないのに――
――いや、むしろ人の恋路を邪魔する為に俺を蹴ったんだ――
「あの馬ぁああああああああああああ!!!!」
(つづく)
[287] 独逸超人 (2008/10/11 Sat 01:48)