それからマレクは、携帯に収めた写真をネタにヘルマンに関係を強要した。
最初は怒り、次には説得しようとしたヘルマンだったが、にこやかに写真を盾に取り続けるマレクに、結局為す術もなく唯々諾々と従うことしかできなかった。
アマンダが夜勤でヘルマンが非番の日こそが、この狂った時間の舞台だ。以前から、マレクを心配したヘルマンが泊まりに来たり、逆にマレクが泊まりに行ったりしていたので、アマンダに怪しまれることは無い。
だが、一度ことの最中にアマンダが帰ってきたことがあってからは、「泊まりに行く」を口実に、この打ち棄てられた倉庫を使っていた。いつもマレクが隠れ家にしているのとは全然別の、もっと人が来ない一角である。ヘルマンの暮らしているアパートと違い、どんなに声を上げても隣近所に行為がばれる心配がなかった。
「…………!………………!!」
唯一自由な首を打ち振り、ヘルマンが呻き声を上げる。しかし、それが苦痛のせいでないのは明らかだ。頬を朱に染め、体を細かく痙攣させている。パイプに固定した手錠が、それに合わせて耳障りな音を立てた。
そのまま追い詰めていく。
腰が浮き、もう少しで絶頂を迎えるだろうという所で手を止めた。少しおいて、ヘルマンが潤んだ目でマレクを見上げる。言葉にしなくても「なぜ?」と問いかけているのが、手に取るようにわかった。
小さく笑みを零すと、その目は恐怖に見開かれる。今まで散々ロクでもない目に合わせてきたのだ、彼がどんなに単純で騙されやすかろうと、いい加減学習するだろう。
嫌な軋みを上げるベッドの上に乗り、ヘルマンの傍らに膝立ちになった。胸元に手を伸ばし、乳首を捻り上げる。途端に上がる、声なき悲鳴。そのまま両方の乳首を交互につまんでは捻った。
「〜〜〜〜!!」
瞬く間にそこは充血して凝り固まり、天に向かって立っていた。放置されていた股間のモノも、未だ先走りを零しながら、持ち上がったままである。
「ああ……右の方が左より、少しだけ敏感なんだね」
マレクはヘルマンの腹の上に手を置き、身を乗り出すようにその乳首を口に含んだ。舌で乳輪に沿って乳首を押し出し舐め上げる。
「!!!」
ヘルマンの体が跳ね上がる。浜に打ち上げられた魚のようなその様子を楽しみながら、マレクはそのまま舐り続けた。終いに彼が動けなくなるまで。
「……ヘルマン、いい格好だね。ふふっ」
もう暴れる気力もないのか、ヘルマンは涙を流しながら虚ろな視線を漂わせている。猿ぐつわをはずしてやると無意識に安堵の息を漏らすが、まだ荒い呼吸に胸が上下していた。
マレクはベッドを下りると、壊れかけた事務机の上に置いてあった紙袋に手を伸ばした。再びベッドの側に戻ると、ヘルマンに見せつけるように中身を取り出していく。まち針と安物のライター、脱脂綿の箱と消毒用アルコールの瓶だ。
「ねえ、ヘルマン」
冷たい声色に、快楽に緩んでいたヘルマンの表情に怯えが走った。
「今日は、あんたに贈り物があるんだよ。僕のお小遣いで買える範囲だから、決していいものではないんだけどね」
そう言いながら、マレクはテキパキと用意を進めていく。脱脂綿にアルコールを含ませ、右の乳首を事務的に拭い、まち針の先をライターで炙り始めた。ヘルマンの目の前で、針が綺麗なオレンジ色へと変容していく。
つまみ上げられた乳首に、鉄(くろがね)の色に戻った針を押しつけられてやっと、ヘルマンは自分の身に何が起ころうとしているのか気付いたようだった。
必死の形相で暴れ始める。パイプもマットも、これ以上ないくらい軋みの音を上げ、両手両脚に引きずられた手錠が騒音を立てる。
「や、やめろっ、マレク!! やめてくれっ!」
「大人しくしてよヘルマン。手元が狂うだろ」
手際よく全身で押さえ込み、素早く針を突き通して抜いた。小さく血が飛び散る。
「!……ひぎっ、が、……ああああああっっっ!!!」
ヘルマンがどれだけの痛みを感じているのか、マレクにはわからない。ただ、限界まで目を見開き、涙と鼻水まみれになりながら喚き暴れるその姿に、憐れみと同等のふつふつと湧き上がってくる歓喜を感じていた。
珠のように盛り上がる血を舐めると、アルコールの瓶を傾けて直に液体を患部にかけた。染みるのか、ヘルマンは声にならない悲鳴を上げる。
「痛い? ごめんね、もうちょっとだけ我慢してくれる?」
マレクは、紙袋の中から抗菌密封された物を取り出した。歯でそれを破り、中から小さな金属をつまみ出す。輪になったそれの途切れたところを開くと、先程開通させたばかりの穴にねじ込んだ。
「いっ……! うぐっ……うう」
紅く色づく突起に、鈍い銀色の光沢が映える。
「取っちゃだめだよ、ヘルマン。勝手に取ったりしたら、今度はここに……」
マレクに男根を力任せに掴まれて、ヘルマンは「ひっ」と掠れた悲鳴を漏らす。
「しちゃうからね」
XATの制服は体にフィットし過ぎていて、こんなのをしていたらすぐに周囲にばれるだろうう。だが、目に見えない相手への牽制にはなる。この犬にはちゃんと飼い主がいるのだと。
ヘルマンのことだ、死ぬほど嫌がるが、結局馬鹿正直に付けてこれを隠す方法探しに躍起になるに違いない。
マレクは、満足げに微笑んだ。
[278] イーゴ (2008/10/07 Tue 23:17)