班長さん
もしかしたら、書いてる人がエロいからかもしれません。嘘です。
(さりげなくバイクを絡ませることによって彼らの体が絡んでいるような印象を持たせてみました)
パラディンさん
的確なアドバイスをありがとうございます。
件のサーキット、グランツーリスモで走ってた!ことに気がつきました。きれいなコースでしたよね。
では。感謝のこころをこめて。オマケです。
----------------------------------------------
紫色の薄い雲が東の空にかかる。
早朝にこの道を走るものはいない。夜よりもずっと冷えた、そして澄み切った空気、生意気ざかりの青年たちの夜の時間は終わり、静かに新しい日を迎えようとしている。
ゲルトはそっとバイクのエンジンを吹かす。低い唸り声、彼が目を覚ます声、そして隠し立てもしない本当の自分を起こす声。さあ、いこうか。相棒、そっとメーター周りを撫でる。最速のタイムを何度も塗り替えてきた、この相棒と自分と、道行は孤独だ。残念なことにこの街には、もう彼と同じ速度まで追いつくことのできる若者はいない。
中腹あたりの見晴らし台のあるこの道はここで折り返し、ふもとまでの下りコースと、ふもとから上ってここまでの上りコースとがある。
ここへ来ることはもう少なくなってしまった。けれど自身の体がここへ向かうようにゲルトを仕向けている。ブレーキングポイント、シフト、ラインどり、わずかな路面の変化にすこしづつ、軌道を修正する。頭のなかから雑事が消え、すっと走ることだけに集中していく。
それはどこかまじないのようなものだ。
上りの中腹までのわずかな距離、一台声色の違うエンジンの音が聞こえた。
下ってくる音、よく手入れされた2気筒のエンジン音、耳の中に飛び込んでくるさまざまな音の中から、ゲルトはそれを聞き分けた。丁寧なコーナーの処理、やや不安定なエンジンの特性を正確に捉えたシフトアップのプロセス、それは耳に心地よく残る。まだすこしの無駄があるが、この音の持ち主はきっと早くなるだろう。
スピードを落とし、街灯のあたらない道の隅に静かにバイクを止める。音の主がどんな男なのか知りたかった。相棒との孤独な道行も悪くない。けれどどこかで求めていた。心を燃やす戦いを、できることならと。
目に飛び込んできたのは、赤いバイク。どこか思い切りのいい、けれどそれもコーナーを過ぎるころ、彼の経験から計算されつくしたラインだと分かった。何度も何度もこの道を走り続けたのだろう。昨日よりももっと、今日の今よりももっと、今ある限界を少しづつこじ開けていくような、若い走り。きっと近いうちにこの男は、ゲルトに挑戦してくるだろう。
「失望させないでくれよ」
火が灯る。もう一度心を燃やす。
「ああ、あいつか」
ほとんど深夜にしか、顔をださないレストランのオーナーは彼を知っていた。
街道が峠へと入る入り口に立っているガソリンスタンドの、隣の古臭いレストラン。スタンドのオーナーでもあるバイク好きの親父は、このレストランが地元の走り屋連中のたまり場になるのを黙認している。
「ヘルマンって呼ばれてたっけな。いつも遅くまで一人で走ってんだよ」
気になるかとにやりと笑う。
「まあな、早くなりそうなヤツだと思ってる」
「ああ、あいつはああ見えてかなりの努力家だ」
毎日タイヤの空気圧計りにくるんだぜと。
店は片付け途中だったが、ゲルトは特別の客扱いで、熱いコーヒーが運ばれてくる。
「嬉しいか」
「ああ」
ゲルトはコーヒーの芳しい湯気に微笑んだ。
空が白んでいく。夜が明ける。
[224] はなげさん (2008/09/20 Sat 01:56)