続き

シドウとジョセフのちょっと変わった遊び、はだいたい半時間ほどで終了した。
 ジョセフ自身はまだ少し物足らないようだったが、シドウの指示には従った。
 終われば今の姿でいる必要はない、と人間の姿に戻ろうとしたジョセフをシドウは制し、半ば呆れて観戦していたアマンダに声をかける。
「触れた程度で感染するなら、とうの昔に感染している。要は互いが負傷していなければ問題は、ない」
 たとえば、とジョセフの腕を掴んで抱き寄せ、頭を撫でるシドウ。
 こうした扱いには慣れているのか、凶悪な外観とは裏腹にジョセフはおとなしい。
 いや、むしろどこか嬉しそうにすら見えた。
 自分から肩口に頭を預けるようにして、体を寄せている。
 そんなジョセフを犬のように頭から首から背まで撫で下ろす
「どうせなら、触って確かめてみたらどうだ?」
「「「「いいんですか!」」」」
 途端、空気が変化する。妙な期待感に満ちた、場の空気。整備員一同、微妙な視線でジョセフをガン見しながらじりじりじりじり距離を詰めていく。
「……え?」
 気圧されたような、妙に間の抜けた声が当のジョセフ。シドウの顔を見上げ、ついでおろおろと辺りを見回し、アマンダ、サーシャと目が合ったところで………気まずいのか視線を明後日の方向にそらしてシドウの影に隠れた。
「悪いがおまえの弟はしばらく借りるぞ」
 そんなジョセフを猫掴みするシドウ。
 止めてくれるかも、とサーシャの方をジョセフは見たものの……
「ええ、構わないわ」
「………サーシャ」
 姉の許可に打ちのめされていた。

 上司?2人から許可を与えられた整備員たちは最初は多少なりとも恐る恐る遠巻きに眺めていた。とはいえ、じりじりじり包囲しつつ、なのだが。
 感染はもちろん怖いが、誰が一番最初に実行するか、どのくらいやっても大丈夫なのか……一応、この時点では彼らはまだ遠慮していた。
 ジョセフにとって悲劇だったのが、結局のところ、遠慮よりも彼らの好奇心が勝ったことだった。

「血液中のナノマシン、ペイルホースに触れなければ問題はないわ」
「それにしたって……」
 続く言葉を飲み込んだのは、アマンダなりの自制心。
 視線の先では……シドウとジョセフが整備員の中に埋もれていた。

 シドウが羽交い絞めにしたジョセフを、整備員たちが撫で回している。
 ジョセフが本気になればすぐに抜け出せそうなのだが、傍目から見てもどうしていいのかわからなくて困惑しているのが見て取れる。
 時折首だけ動かして困ったようにシドウを見上げるのだが、目線で現状維持、を命じられたのかうな垂れる。
 とてもじゃないが、コレが戦って他の融合体を蹴散らしているところ、は想像できないほど情けない姿だった。
 これを見る限り、少なくともいきなり暴れ出したり逃げ出したり、というのはないようである。
 最初は恐る恐る遠慮がちに腕に触れている程度だったのだが、とにかくジョセフが抵抗しないのでどんどん整備員たちは大胆になっていく。
「あ、やっぱ金属の質感なんすね」
「冷たい、て思ったんすがやっぱ生物なので生温かいですね〜てかむしろ熱い?」
 胸元や肩口や足に触れられている間はまだマシな方だった。
「心臓撃たれても死なないのに、欠けたり折れたりしたとこは再生しないのが意外だなぁ」
 右角が折れたせいでまるっきり表情の異なる顔面に触れる度胸さすがにないようだが、大きく欠けた左肩の断面は範囲も大きいだけあって格好の対象。断面構造をよく見ようとルーペまで持ち出す整備員まで出る始末。
 ジョセフにとってこれは微妙にくすぐったいらしく、落ち着きがない。
「ちょっと足裏みせてくださいね〜、わ、こうなってんだ」
 足裏が見たいと足を掴んで持ち上げて、足裏を弄繰り回す者まで出た。
 いい加減、抵抗すればいいのだが足裏を見られている間体重をかけまいとおとなしく片足立ちしている辺り、ジョセフは人が良いにも程があった。
「硬くなってても、この辺くすぐったいんですか?」
 脇腹を撫でたり、脇の下をくすぐったり、挙句の果てに下腹にまで手を伸ばしてくる者。
 下腹の辺りに触れられた時は少しびくっとして不安そうにシドウを見上げ小さく何か呟いたが、シドウが耳元に何かを囁くとおとなしくなった。
「シドウさん、背中触りたいんで位置変えてください」
「ああ、ちょっと待て」
 羽交い絞めにしていたジョセフを離し、向きを変えて頭を肩口に抱き寄せ、左で肩を抱いて開いた右腕で両腕を抑える。
 いい加減、ちょっとだけでも抵抗してもよさそうなものなのだがジョセフはまったくもって無抵抗。
「背中のトコにもネジみたいのあるんすねー」
「腰の一部だけ白くて、尻だけきれーに光ってるのって意味あるんすか?」
「…………………わからない」
 そんなこと、聞かれたって当のジョセフだって困る。なんでこういう外見とかラリーリングになったのかも、説明はされていてもわかってるようでわかっていない。
「でもいい尻だな〜ホント。ちょうど尻の辺りだけ装甲も薄くてすべすべしてて手触りいいっすね〜」
 整備員予想外の行動に完全に動きが固まるジョセフ。 なんで衆人環視の状況で……自分は尻を触られているのだろう。
「ホタルとかだと尻が光ってるのって、相手を誘ってるんですよね」
「ジョセフさん誰か誘ってるんすか?」
「………………なっ……」
 いや、誘ってない、断じて誘ってない……抗議しようと思うのだがうまく言葉が出てこない。
「いや〜絶景ですな〜〜」
 かがみ込んで下からじ〜〜っと見上げる輩まで出始めた。
「……シドウ………………」
 そろそろ、ジョセフの我慢も微妙なところだった。目で訴えるだけではなく、シドウの耳元で何か囁きかける。
 ぽんぽん、と宥めるようにジョセフの頭を軽く叩きつつシドウは言った。
「すまんが、そろそろ用があるんでお開きだ」
 抑えていたジョセフを解放するか、と思いきや……少しかがんで尻の辺りに手を伸ばしてそのままあっさり横抱きにする。
 いわゆるお姫様抱っこ、というやつなのだが………抱かれている対象に著しく問題がある。
 何の罰ゲームかこれは!というくらいシュールな光景なのだが、当人たちは慣れているのか……いつものことなのかジョセフは暴れもせずにおとなしくしている。
 その場に居合わせた全員が、何か突っ込みたかった。
 だが……突っ込んでしまったら何か終わってしまう気がした。
 聞いてみたいのだが、恐ろしくて聞けない。

「いつもこんなことしてるんですか?」とは。

 それでもし、そうだ、とでも答えられたら明日から2人の顔がまともに見れないような気がする。
 だが、この場の沈黙にも耐えられない。
 沈黙を破ったのは、アマンダだった。
 さしさわりのない質問を、とりあえずぶつけてみる。
「結構重そうな外見なんだけど、そうじゃないの?」
「見た目よりはずっと軽い、人間の時の2倍もない。じっとしてるから余計に軽いな」
 それだけ言って、シドウとジョセフは整備エリアを後にした。
 向かった先からすると、どうやらシドウの部屋が行き先のようなのだが……。
 アマンダは小声でサーシャに問いかけた。
「ねぇサーシャ……あれって……人間のときも……」
 手を上げてアマンダを制し、サーシャは不自然なほどにこやかにこたえた。
「……いいのよ、ジョセフが幸せならそれで」

[161] ガルム (2008/09/13 Sat 07:56)

[160] 融合体に触ってみよう(指導×黒融合体 ギャグ) ガルム 2008/09/13 Sat 07:55res
┗[161] 続き ガルム 2008/09/13 Sat 07:56
┗[162] Re^2: 融合体に触ってみよう(指導×黒融合体 ギャグ) wald640 2008/09/13 Sat 11:25
┗[164] Re^3: 融合体に触ってみよう(指導×黒融合体 ギャグ) hanage3 2008/09/13 Sat 20:48
┗[165] Re^4: 融合体に触ってみよう(指導×黒融合体 ギャグ) yotsubishi 2008/09/13 Sat 21:13
┗[166] いいな〜わんこw イーゴ 2008/09/14 Sun 18:09
┗[167] まざりたいw 整備員 2008/09/14 Sun 21:32
┗[191] レスありがとうございますー ガルム 2008/09/16 Tue 01:24