(赤白赤 相互自慰)最後の…

タイムアタックを終えた男達が、ピットへ戻ってくる。
夕暮れ、あたりは薄く紫のグラデージョンがかかり、雑音、金属の鈍い音とエンジンが震わす空気の音に包まれる。午後の6時を過ぎた頃、ピットの中にある気圧計は、1000と1010の目盛りの真ん中、湿度は100%、雨が降っている。罵声が聞こえる。いつもと変わらないサーキットの光景、暴れる愛馬の前輪を押さえ込んでいた腕が重くだるい。
 ゆっくりとピットレーンに入り、エンジンを止め跨っていたバイクから降りる。不自然な形で負荷のかかっていた足を地上につけたとき、やっと帰ってきたという気分になった。雨を大量に吸ったスーツが濡れて体に纏わりつくのを、ヘルマンは初めて不快だと感じた。
「まあまあのタイムだな。雨の日の自己ラップは更新したか」
メンテナンスをしているピットクルー達に混じって、金髪の男がヘルマンに声をかけてきた。ゲルト・フレンツェン。まだシーズン途中ながら、すでに今年も優勝はかたいと言われている、サーキットの英雄。ヘルマンは苦笑した。
「それでもたったコンマ数秒だったな」
「何、まだ明日があるさ」
そうだな、まだ明日がある。ヘルマンはその言葉を反芻した。やっとここまで来た。やっとこの男と同じレースを走ることが出来るようになった。しかし今シーズンは未だ完走すらしていないのだ。そして。
「それにしてもひどい雨だったな、シャワーでも浴びて帰ろうぜ」
ヘルマンの肩にゲルトの手が乗る。
それは未だに峠を走っていたころと変わらない。
「ああ、しかもひでえ匂いだ」
汗と汚れと、湿った革のツナギからは、不衛生きわまりない匂いがしていた。
「そうだな、このまま帰ったら彼女の部屋からつまみだされるぞ」
うなずきながら、そういえばゲルトは今、どんな女と付き合っていただろうかと考えていた。トップレーサーである彼には、いつも複数の女が取り巻いていたはずだ。ただ同じ顔ぶれがいないことをみると、それほど長続きしない性質なのか。

 シーズン中、ヨーロッパ各地を転戦するレーサーにとってサーキットの設備は、整っていることに越したことはない。駆け出しのころはチームトレーラーなんてないからなおさらだ。ここは比較的いい部類で、コックをひねるとちゃんと暖かいお湯が出た。古いホテルでは、水もでなかったりするシャワーもあるので、これは上等の部類に入る。
「…おい、そっちに石鹸ないか」
「使いかけでいいか」
隣と隣を仕切るものはなく、振り向くとゲルトの大きな背中があった。なだめすかすようにクラッチをつないでやらないと、大暴れする愛馬を押さえ込むために発達した首から肩にかけての筋肉が、彼のレーサーとしてのすばらしさを物語っている。石鹸を手渡そうと振り向いたとき、ふいに口笛を吹かれた。
「なんだよ」
よくからかいの対象となるあれだろう。
「何度見ても感心するぜ」
視線を注がれている股間がなんだかむず痒い。
「こんなもんだろ、みんな」
「いや、でかい。彼女、ずいぶん泣いただろ」
うーんとヘルマンは唸る。隣でゆれているゲルトのそれとあまりかわらないはずである。しかもレーサーになってからは、モーターサイクルにさらに夢中になって彼女なんていたことがなかった。
「立ったら、どれだけになるんだろうな」
「冗談がすぎるぜ。ハイスクールのガキじゃあるまいし」
ハハハと豪快にゲルトが笑った。
「ほら、石鹸返すぜ」
「うわっ!」
石鹸が手ではない場所に返される。そのままゲルトの手は股間のそれを一緒に握った。
「片手じゃ無理か」
両手が添えられ、そこは悪ふざけの延長で軽くしごかれた。
「やめろよ、度がすぎてる」
そのくせ少しの刺激でまるで、少年のように反応する自分を恥じた。
「…最終ラップ、あせってつっこみすぎだ。ヘルマン、もっとリラックスしろよ」
そのまま器用に両手でヘルマンをしごきあげる。なぜゲルトがそんなことを言いながら、こんなことをするのかわからない。ゲルトの手はアクセルワークを行うような細やかさを発揮し、ヘルマンをもっと大きくさせた。
「うわっ」
思わず声をあげる。ゲルトが上手すぎて。たかが自慰なのに。なぜか悔しくなってヘルマンも眠っているゲルトのそれに手を伸ばした。
「雑だな、ほらもっと繊細に。ゆっくりなだめるように…わかるか」
ヘルマンのアクセルワークをゲルトは、下手糞と評した。
「あせって熱くなるな、のぼせるな、丁寧に慎重に、息を潜めて獲物を狙え」
わずかだが、お互いの呼吸が早く、浅くなる。
「隙を見つけて、襲い掛かれ」
ヘルマンを包む手の動きが早くなった。自身から滴り落ちる粘液の感覚に驚く。ただしそれは自分のものだけではなかったようだ。
「…開放するんだ」

 戦績の振るわないものはチームから去る。シーズンの途中で脱落することは、さほど珍しいことではない。伸び悩んだ若手が、年老いた中堅が、心の折れた上位者が、サーキットを去っていく。

…スタート10秒前

 快晴。ひりひりとした緊張がヘルマンののどを焼く。斜め前の前、追い続けてきたゲルトの背中があった。右手に左手に昨日の言葉がよみがえる。せわしない鼓動。繊細にゆっくりとなだめるように。
「さあ、最後のレースだ」
何度も何度もその言葉を反芻した。

[116] はなげさん (2008/09/02 Tue 23:49)

[116] (赤白赤 相互自慰)最後の… はなげさん 2008/09/02 Tue 23:49res
┗[117] Re: (赤白赤 相互自慰)最後の… 640 2008/09/02 Tue 23:56
┗[118] Re^2: (赤白赤 相互自慰)最後の… はなげさん 2008/09/03 Wed 00:12
┗[119] 萌える〜! はんちょ 2008/09/03 Wed 12:08
┗[120] Re^4: (赤白赤 相互自慰)最後の… はなげさん 2008/09/03 Wed 22:02
┗[129] Re^5: (赤白赤 相互自慰)最後の… イーゴ 2008/09/07 Sun 16:33
┗[134] 体育会系のエロ? はなげさん 2008/09/09 Tue 16:36