(赤白赤 なれそめ)歓喜の歌(前編)

多分、このネタは早いもの勝ちだったんじゃないかなと思う…ごめんなさい。早漏なんです。

前後編です。まず前編から。
赤白赤ですが、やや白優勢です。エロ少な目でごめんなさい。
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 このあたりに住む若者の噂では、あの峠で最速のタイムを叩き出した男がいるという。自分たちと同じ世代の若い男だという。誰よりも早く、誰よりも強く、バイクに跨ることを覚えた若者たちは、こぞってみなそれを求めた。ヘルマンも例外ではなかった。誰よりも早く走るためにチューンナップに血道をあげ、急カーブでアスファルトにプロテクターのひざを削らせ、命を削る。ぎりぎりの爽快感。ここで走り続けていれば、必ずその男に会える。
 峠の入り口には、ガソリンスタンドに併設された古いレストランがあり、そこはちょうどいい具合に走り屋連中の溜り場になっていた。駐車スペースには、すでに何台か見慣れたバイクが止まっている。バイクを見れば中にだれがいるのか、ヘルマンもたいていわかるようになっていた。
「いよぅ、ヘルマン」
窓越しに見知った顔が声を掛ける。
「今夜の最速、お前らしいぞ」
祝杯のかわりにジンジャーエールでも空けようと、ヘルマンを手招きする。
「みんなのおごりでたらふく飲めるな」
走ることがなによりも楽しかったが、こうして仲間ができるのも悪くない気がした。夜中、走り続けて明け方まで、セッティングについて口論する。
「ほら、今日のタイム、あいつが取ってってくれたんだぜ」
「ありがとな、ああ、車まだ修理中だったよな」
送っていこうかと、ヘルマンは声を掛けた。
「最速でか。やだね。俺は男にしがみつく趣味はねえな」
まだまだ、それは伝説のタイムには及ばない。手渡された紙に並ぶ数字の羅列に軽くため息をつく。
「おっ、不満か?」
ヘルマンを茶化した男が、少し真剣な顔をする。
「ああ…まだアイツには及ばねえ」
ジンジャーエールが運ばれてきた。店のおやじが「まだおめえには、早えぇや」と呟く。
「伝説の男をひっぱりだそうって話があってさ、どうだ?」
隣の席では、どうやらその話の最中らしい。大勢あつめて、タイムアタック大会をやろうということになっている。
「…他の峠から遠征してくるヤツも入れてさ、そうなったら、地元の意地とかあんだろうが」
確かに。走り屋には地元コースの意地ってものがある。走りながら体に叩き込んだ、コースの癖、ブレーキングのタイミング、タイムを稼げるコーナーの攻め方。やすやすと、他から来たやつに最速をひき渡すことは許されない。
「で、それ、いつやるんだ」
ヘルマンは立ち上がった。他から来るやつには負ける気がしなかった。が、もしかしたらという淡い期待が心を躍らせた。
「気をつけろよ、他から遠征にくるようなヤツらは、かなりの腕利きだ」
店の親父が軽く皮肉を言う。店内を見渡せば、ヒーローと呼ばれる二輪レーサーの写真ばかりだ。

「遅くなってすまんな」
頭上から落ち着き払った声が聞こえた。
エンジンの爆音と罵声の中から、ヘルマンはそれが、待っていた男の声だということを本能で聞き分けた。よく手入れされた男の跨るバイク、いかにもいい声で鳴きそうなエンジンの振動、振り向くと金色の光の中に彼がいた。
「今夜の相手は誰だ」
罵声が歓声へと変わる。
王者が挑戦者を指名する瞬間。
ヘルマンは立ち上がる。
…声が出なかった。
「さあ、行こう」
握手を求めるかのように差し出された手を受け取った。まるでこれはダンスに誘われる令嬢か、決闘を求められる騎士か、震える手を一度強く握り締めた。
…行こう、だれよりも早く、だれよりも強く。
…着いてこられるのなら、同じ速度の世界へ。
 ぱきぱきに乾いたアスファルトのコンディションは最高。風はそれほど強くは吹いていない。つい先ほどまで休んでいたタイヤの熱は、わずかに熱く、アスファルトを絶妙に噛み締めるだろう。
「ゲルト・フィレンツェンだ」
メットをかぶる直前に最速の男の名前を聞いた。
「俺は、ヘルマン、ヘルマン・ザルツァ」
深呼吸をする。対向車が来ないか、確認が届く、コンディショングリーン、チェッカーの変わりに3台のバイクがヘッドライトを順につける。最高のトルクをエンジンから引き出すと、それが心臓の鼓動とシンクロした。2気筒のエンジンが奏でる、歓喜の歌だ。
…さあ、行こう!
最後のライトが灯る。2台のバイクが一直線にはねだした。ヘルマンは奥歯を噛み締める。始めから後ろについて彼のトレースする軌道を辿るつもりだった。それだけで彼のすべてが分かる。マシンのセッティング、バイクの挙動を制御する癖、ライディングスタイル、勝負どころの勘。
 ラインどりがわずかに違う。ヘルマンのそれよりも何インチかの差で、さらに深くコースをついている。セッティングの差もあるかもしれない。ヘルマンに直線での勝機はないが、立ち上がりの勝負なら分がある。度胸試しだ、限界まで路面に迫る。景色の流れがいつもよりも早い。ギリギリだ。恐れるなと言い聞かせる。ここで俺はどれだけの時間を費やした?と。スピードを殺さず、コーナーを抜ける、ゲルトの横に体を寄せるようにプレッシャーをかける。
 3つ目のコーナーで意識がぶっ飛んだ。もう前を照らすヘッドライトの明かりと、その奥の闇に隠れる道、流れる景色しか目に入らない。荒い息遣いを整えながらわずか前を走るゲルトを追う。仕掛けるタイミングをずっと狙っている。
 乾いた小さな音がした。わずかに手に振動が残る。カウルがかすったのだ。まるで初心な恋人同士のキスのように。それだけでイッってしまいそうなエクスタシー。このまま、このままと熱ダレして、さらに挙動の怪しくなったタイヤに言い聞かせる。
…今、すっげぇ、いいトコなんだ。邪魔すんじゃねえぞ!
コーナーで確実に並ぶ。立ち上がりわずかにヘルマンが有利だが、一瞬でゲルトは体制を建て直し差が開く、また次のコーナーへ。突っ込む、並ぶ、前へ出る、追いすがる。絡み合うライン、初めての逢瀬、なんて…
 歓声と光に包まれる。

 二人のバイクを中心に人だかりが出来ていた。なんでも大幅なタイム更新なのだそうだ。けれど、ヘルマンは、彼がまだ限界までアクセルを開けていないことに気がついていた。タイヤはずっと正確に最速のラインを辿っていた。熱によるタイヤへの磨耗は少なかったことになる。
「…かなわねえ」
ぼそりと呟いた。
走っていたときには、息遣いすら聞こえるかと思うほど近くにいた。けれど今は彼の姿が遠いものに思えた。
「追いかけてこいよ」
不意に耳元にゲルトが囁いた。まるでヘルマンを見透かすように。ヘルマンの目を笑うゲルトの顔を捕らえた。一瞬、いたずらっぽく笑う。
「おい、美女のキスとか賞品はないのか」
ヘルマンもゲルトの言葉につられて笑った。
「チューくらい用意しとけよな、お前ら」
歓声が笑いへと変わる。ないんだ!すま〜んと見知った顔の間の抜けた声を聞く。
「じゃあ、負けたコイツへの罰ゲームだ」
 唇を奪われた。男に。爆笑にわく、円の中、ヘルマンは盛大に落ち込んでいた。
意外とゲルトは冗談も好きらしい。けれどこれはシャレにならない。触れ合うだけのキスかと思っていたけれど、しっかり舌まで入ってくる濃厚なヤツをお見舞いされた。
 分厚い乾いた男の唇と、熱い舌が歯茎を舐める、それだけではなく、頭に回された手が首まで下りて、さりげなく首の骨をなぞる。指先の器用さは、バイク以外にも発揮されているだろう。
「いつか、仕返しするからなっ」
睨み返したゲルトの目は誘っていた。

…さあ行こうぜ。だれも追いつけないほど早く。同じ速度の世界へ。

[198] はなげさん (2008/09/16 Tue 17:44)


Re: (赤白赤 なれそめ)歓喜の歌(前編)

しまった!バイクの知識が中途半端です。
戦闘とかレースのシーンがちゃんと書ければいいのになと思いながら、
早漏なので書いてしまいました。
4輪&ゼロヨンなら…体験を含めて少しは書けるんだけどな〜と言い訳。

[199] はなげさん (2008/09/16 Tue 17:53)


Re^2: (赤白赤 なれそめ)歓喜の歌(前編

やられた!!(笑)
やっぱこの辺りは皆書きたいとこですよね。
おいらも途中まで書いて放逐してるのがあるんですが、そのうち上げようとおもてたのに先超された(笑)。

しかし、なんつーか、立派な白赤言うか、白が超色男過ぎてかっけ〜です。
そして赤は仲間にいろんな意味で愛されてそうです。
続き超楽しみです〜〜

はなげさんとこの、明るくて好きだなぁ。
ちょっと絵で描きたい〜〜

[200] はんちょ (2008/09/16 Tue 18:40)


Re^3: (赤白赤 なれそめ)歓喜の歌(前編)

はんちょさん
うわ…またもや私が。ごめんなさい。<(_ _)>
実は、これ後編が書きたくて前編も作ったのですよね。でもこれぜったい、だれもが書きたいネタですよね。
赤を主人公に書くときは、意識して明るくしてます。「生きていることの素晴らしさ」が彼だと思うんですよね。

絵、ぜひぜひ、描いてくださいませ。
嬉しくて泣きますよ!

[201] はなげさん (2008/09/16 Tue 20:22)


Re^4: (赤白赤 なれそめ)歓喜の歌(前編)

生きてることの素晴らしさ、まったくもって!
お言葉に甘えて後半終わったあたりで描かせてくださいますか〜?
どこかワンシーン。

あ、私のはどうせあんな感じにアレな展開なので、そのうちひっそり上げても更に周囲を引かせるぐらいしか出来ませんのでお気になさらず(笑)

[202] ヘタレ班長 (2008/09/16 Tue 20:52)


青春だ!

ヌゲーよ、はなげさん!
青春グラフティしてるよ!
バイクの知識は全然ないので、突っ込めないから私は大丈夫です。

ホント、どこでも仲間になったヤツには愛されてるんだろうな、ヘルマン。
罰ゲームのディープちゅうもGJでっす!

[204] イーゴ (2008/09/16 Tue 21:17)


Re^6: (赤白赤 なれそめ)歓喜の歌(前編)

イーゴさん

愛され泣きぼくろヘルマンに万歳です!
きっとどこでもいい仲間にめぐりあえそうな、拳と拳でわかりあってしまえそうなところが、
ヘルマンの魅力です。

では、後半行きます!
わっしょい!ヘルマン祭!

[206] はなげさん (2008/09/18 Thu 00:26)


Re^9: (赤白赤 なれそめ)歓喜の歌(前編)

「バイクの知識が…」と書かれていたので、2輪乗りから無粋な突っ込みよろしいですか…?

ヘルマンのバイクの元ネタといわれているDucati900は、2気筒です。 
んでもって、2気筒のほうが心臓の鼓動に近い振動があるですよ^^(大型の4気筒はあまり振動しない)

あと、オンロードの2輪でドリフトはしないです。(オフロードではあるみたいですが…)
テールスライドはする…というより起きることはあります。
ハンドルもカーブの時には動かしません。ハイサイドを起こしてコケます。(こちらもオフロードではあったかもですが…)
ので以下提案です

スピードを極限まで殺さず突っ込んだら
フルブレーキングで一気にハングオン、地面に接触しそうになる恐怖と、遠心力に吹っ飛ばされそうになるのをギリギリまで耐え抜いて、出口でアクセルを吹かすと同時に、跳ね上がるようにシートへ腰を戻す。

みたいな感じだとバイクの走りになると思いますが、どうでしょうか?
差し出がましくてすいません。

[212] パラディン (2008/09/18 Thu 18:56)


Re^10: (赤白赤 なれそめ)歓喜の歌(前編)

ああ!そのくせ感想忘れるとかね!もう馬鹿ですね!
2輪ヲタは馬鹿ばっかですw

前回のシャワーの時といい、はなげさんの体育会系のさりげないイチャっぷりに萌えるです。
個人的に「さーヤルぞ!」というのよりも好みですので…
けしからん!もっとやれ!と思ったですよ。

また萌えをくださいまし!

[213] パラディン (2008/09/18 Thu 18:58)


しみました。

なんだろう、上手く言えないけど、ほろ哀しい透明な空気が胸にしみていくような感じがしました。
穏やかで眩しい彼岸の風景。
ヘルマンへの幸福な餞として読めました。
今すごくしみじみしてます。

ハナゲさんGJ!

[214] 整備員 (2008/09/18 Thu 20:52)


(赤白赤 22話バレ)歓喜の歌(後編)

後編です。
(重複は無事削除できました〜ご迷惑おかけしました)

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(赤白赤 22話バレ)歓喜の歌(後編)

 薄暗い、多分これは夜明け前の道、夜が終わりを告げるまえの柔らかい闇が、目の前に続いている。すでに体の一部として馴染んだバイクを走らせて、ヘルマンはふとここはどこだろうと、思った。木々に囲まれた道はずっと同じ景色が続く。こんな大きな森のある道があっただろうか。ニュルブルクリンクの北コースでも、こんなに森林地帯がずっと続かない。道の先にはほのかに明るい一点がずっと灯っている、多分、そこが山頂なのだろう。
 すれ違う車が1台もないことを不審に思う。それでも、なぜかとても走りやすい道と、馴染んだバイク、すぐ夢中になった。多分、夢でもみているんだろ、と。このバイクには覚えがある、もう今は乗っていない、あの峠を一番多く走って、エンジンが逝かれちまったバイク、手元に戻るはずがない。
「さあ、行こうか」
ヘルマンは懐かしい愛車に声をかけた。アクセルを開ける、カーブが目の前に迫っているが、まだまだブレーキをかけるには早い。ギリギリのタイミングまで粘る、スピードを極限まで殺さないで突っ込む。ハンドルを押さえつけ、荷重移動をかけると大きく傾いた車体に路面が迫る。転ぶか、外に放り出されるか、けれど自由に走るという久しぶりの快楽に身をゆだねる。とたん、知っていると、バイクの上で全身が叫んでいた。景色はまったく違うけれどこの道をよく知っている。
 明かりの先は、ガソリンスタンドと、そこに併設された古いレストランだ。駐車スペースには、すでに何台か見慣れたバイクが止まっている。こんな懐かしい夢を見るなんて、俺もとうとうおっさんの仲間かと、ヘルマンは苦笑した。
「いよぅ、ヘルマン」
窓越しに見知った顔が声を掛ける。
「今夜の最速、お前らしいぞ」
祝杯のかわりにジンジャーエールでも空けようと、ヘルマンを手招きする。
この夢は、あの日に繋がっているらしい。
「ほら、今日のタイム、あいつが取ってってくれたんだぜ」
手渡された紙に並ぶ数字の羅列。見覚えのある数字だ。全部思い出せる。
「おっ、不満か?」
眉を寄せたヘルマンを男が茶化す。
「伝説の男をひっぱりだそうって話があってさ、どうだ?」
隣の席では、どうやらその話の最中らしい。大勢あつめて、タイムアタック大会をやろうということになっている。
「…他の峠から遠征してくるヤツも入れてさ、そうなったら、地元の意地とかあんだろうが」
ここで初めて出会った男と、同じ道をずっと走り続けていた、あの懐かしい日々の始まり。運ばれてきたジンジャーエールに口をつける。あの日と同じ味がした、気泡が喉ではじけるように胸の奥にざわざわと泡立つ。

もうずっと、そこから遠い場所にいる。

「遅くなってすまんな」
頭上から聞きなれた声が聞こえた。
あの日のように金色の光をまとい、彼は、ゲルト・フィレンツェンは、ヘルマンのもとにやってきた。ただ彼を照らしている光は、ヘッドライトではなかった。
「そんなでもないぜ」
今度は自分から手を差し出す。
「さあ、行こう」
その声を合図にヘルマンは立ち上がる。
罵声も歓声もなく、ただ静かに。
であったころの王者と挑戦者のように。
ヘルマンの手をとるとゲルトは笑った。
「ここも悪くない」
ゲルトが指差した先から景色が変わる。見慣れた故郷の峠道に、見晴らし台のように張出した峠の中腹の駐車場に、いつもの「スタート」地点へと。霧が晴れていくように、薄暗い闇の森が姿を変える。風が吹いている。わずかにヘルマンの頬に当たる。
「チェッカーがいねえな」
「贅沢を言うな」
…ああ、そうか。ここには今、自分たち以外のだれもいないんだな。
ここがどこでどういった場所なのか、ゲルトは少しづつ教えようとしてくれている。
「けっこう…早かったな」
ゲルトの背中を覆うもの、それは羽根だ。白くそして金に光る。
ここは、もう命のある場所ではないのだ。それは寂しい場所だとヘルマンは思っていた。こんなにも青く美しい空の下にある場所だとは、考えもつかなかった。
「ああ、予定よりもちょっとな」
苦笑いをする。現実というものは、ひどく格好のつかないものだ。
「…心のこりか?」
ああ、と頷いて下を向いたとたんボロっと目から大粒の涙が落ちた。すべてを思い出して、あの性格は乱暴だが愛すべき美人の姉と、心根のやさしくて孤独な弟は、国外へ無事逃げおおせただろうか。もう自分は守ってやれない。手の甲で涙をぬぐうが、後から後からそれは尽きることがなく、ヘルマンを狼狽させた。
「大丈夫だ、あの子は強い」
「ああ」
マレクはデモニアック化したゲルトを恐れなかった、手を握った。それが彼にとって、どれほどの救いだったのか、ヘルマンにもやっと分かった。そしてそんな自分を抱きしめたアマンダも。
「それよりも、彼女が心配か」
いやと首を振った、でも。彼女は強い。けれど…だから心配している。
「たしかに恐ろしいジャジャ馬だったよな」
趣味がわるいぜとゲルトは笑った。そうでもない、いい女だ。まっすぐすぎるくらいまっすぐな。
「大丈夫、お前ほど馬鹿じゃないさ」
「だと、いいけどな」
彼女らしく生きていけばいいと、ヘルマンは思う。ただ、命だけは粗末にしてほしくないだけだ。
「あ〜あ、また不戦敗(リタイア)だ」
「完走率、低かったよな、お前」
くくくっとゲルトの笑い声が漏れた。
いつのまにか、ヘルマンも笑っていた。
お互いにこんなに笑ったのは、もしかしたらあの日だけだったかもしれない。短い蜜月は、ゲルトのレーサーとしてのデビューで終わりを告げた。ただ純粋にどこまでも早く、どこまでも強く、と求め合った短い蜜月。
「…しなくて正解だったんじゃないか。あの女、キスが下手ってだけでぶん殴りそうだ」
ゲルトは冗談めかして言った。言葉が彼女を縛るなら…言わないほうがよかった。ヘルマンも幾度となく迷ってきた。
「それはないぜ。俺、上手いからな」
冗談は冗談で返す。
ゲルトの顎を掴み、自分の顔へと寄せる。あの日のお返しだ。触れ合うだけのキスではなく、もっと深く、もっと熱いキス。背中に手を這わすと、立派な羽根の付け根をまさぐった。
そして上唇をなぞる、少し開いた先に舌を絡めて誘う。大胆にかつ繊細にゲルトを誘いだす。コーナーで絡み合う2つのラインのように。それはバイクに跨った男同士の珍妙な口付けだ。

…さあ行こうぜ。だれも追いつけないほど早く。同じ速度の世界へ。
離れた唇から同じ言葉がこぼれた。

エンジンに火を入れる、高鳴る胸の鼓動。
それはスピードの祝福。2気筒のエンジンが奏でる、歓喜の歌だ。

[215] はなげさん (2008/09/19 Fri 00:17)


バイクのシーンをちょっとだけ…

直してみました。
バイクに乗らないとわからない感覚ってありますよね…
機会があったら乗ってみよう…原付しかのれないけれど。

パラディンさん
バイクレクチャーありがとうございます!
参考にしましたが、雰囲気が出せているかどうか…
体育会系の無邪気なイチャっぷりは、私も大好物です〜

整備員さん
ヘルマンを待っててくれていたゲルトさんを書きたくて、そして無邪気に笑う彼らを書きたくて、
早漏しました。

ヘルマン祭わっしょい!です。

[216] はなげさん (2008/09/19 Fri 00:26)


ひたすら萌え〜でした。

初読みで萌えた末にあらぬ方へ脳が腐れていったので、後編含めた感想かくの忘れてました(汗)
死んじゃった(涙)のに幸せで爽やかでエロい・・・のがなんというかすごく救われました。
最初読んだ瞬間に色々ぶわーっと来ちゃって仕方ありませんでした。

そして、A以上進んでないのにこの明るいエロさの秘訣を知りたいです。
言葉に表しづらいんですが、何というか、無性に好きだー!って気分にさせられます。
はなげさんはすごいなぁ〜♪

[219] ヘタレ班長 (2008/09/19 Fri 09:32)


Re^14: (赤白赤 なれそめ)歓喜の歌(前編)

ついでにもう一つ…!(まとめて言えよ!
ドイツにはニュルブルクリンクという世界最大級の森林コースがあります。
車のCMや広告で、綺麗な森林の中を走っているのはニュルブルクリンクが多かったり…。
(発表前でもコースを借り切ってしまえば、
秘密裏に撮影を完了できるので)

1話のサーキットもニュルブルクリンクのショートコース(森の外)に近いレイアウトになっているっぽいです

よかったらご参考にして頂ければ
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%AB%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%AF

つっても自然の峠にはかなわないと思うので、それはそれでいいといえばいいと思いますです。

すいません!

[220] パラディン (2008/09/19 Fri 09:32)


(オマケ)前編でも待っていてくれたゲルトさん。

班長さん
もしかしたら、書いてる人がエロいからかもしれません。嘘です。
(さりげなくバイクを絡ませることによって彼らの体が絡んでいるような印象を持たせてみました)

パラディンさん
的確なアドバイスをありがとうございます。
件のサーキット、グランツーリスモで走ってた!ことに気がつきました。きれいなコースでしたよね。

では。感謝のこころをこめて。オマケです。

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 紫色の薄い雲が東の空にかかる。
早朝にこの道を走るものはいない。夜よりもずっと冷えた、そして澄み切った空気、生意気ざかりの青年たちの夜の時間は終わり、静かに新しい日を迎えようとしている。
 ゲルトはそっとバイクのエンジンを吹かす。低い唸り声、彼が目を覚ます声、そして隠し立てもしない本当の自分を起こす声。さあ、いこうか。相棒、そっとメーター周りを撫でる。最速のタイムを何度も塗り替えてきた、この相棒と自分と、道行は孤独だ。残念なことにこの街には、もう彼と同じ速度まで追いつくことのできる若者はいない。
 中腹あたりの見晴らし台のあるこの道はここで折り返し、ふもとまでの下りコースと、ふもとから上ってここまでの上りコースとがある。
 ここへ来ることはもう少なくなってしまった。けれど自身の体がここへ向かうようにゲルトを仕向けている。ブレーキングポイント、シフト、ラインどり、わずかな路面の変化にすこしづつ、軌道を修正する。頭のなかから雑事が消え、すっと走ることだけに集中していく。
 それはどこかまじないのようなものだ。

 上りの中腹までのわずかな距離、一台声色の違うエンジンの音が聞こえた。
下ってくる音、よく手入れされた2気筒のエンジン音、耳の中に飛び込んでくるさまざまな音の中から、ゲルトはそれを聞き分けた。丁寧なコーナーの処理、やや不安定なエンジンの特性を正確に捉えたシフトアップのプロセス、それは耳に心地よく残る。まだすこしの無駄があるが、この音の持ち主はきっと早くなるだろう。
 スピードを落とし、街灯のあたらない道の隅に静かにバイクを止める。音の主がどんな男なのか知りたかった。相棒との孤独な道行も悪くない。けれどどこかで求めていた。心を燃やす戦いを、できることならと。
 目に飛び込んできたのは、赤いバイク。どこか思い切りのいい、けれどそれもコーナーを過ぎるころ、彼の経験から計算されつくしたラインだと分かった。何度も何度もこの道を走り続けたのだろう。昨日よりももっと、今日の今よりももっと、今ある限界を少しづつこじ開けていくような、若い走り。きっと近いうちにこの男は、ゲルトに挑戦してくるだろう。
「失望させないでくれよ」
火が灯る。もう一度心を燃やす。

「ああ、あいつか」
ほとんど深夜にしか、顔をださないレストランのオーナーは彼を知っていた。
街道が峠へと入る入り口に立っているガソリンスタンドの、隣の古臭いレストラン。スタンドのオーナーでもあるバイク好きの親父は、このレストランが地元の走り屋連中のたまり場になるのを黙認している。
「ヘルマンって呼ばれてたっけな。いつも遅くまで一人で走ってんだよ」
気になるかとにやりと笑う。
「まあな、早くなりそうなヤツだと思ってる」
「ああ、あいつはああ見えてかなりの努力家だ」
毎日タイヤの空気圧計りにくるんだぜと。
店は片付け途中だったが、ゲルトは特別の客扱いで、熱いコーヒーが運ばれてくる。
「嬉しいか」
「ああ」
ゲルトはコーヒーの芳しい湯気に微笑んだ。
空が白んでいく。夜が明ける。

[224] はなげさん (2008/09/20 Sat 01:56)


Re^15: (赤白赤 なれそめ)歓喜の歌(前編)

わあい!わあい!ありがとうございます。
ヘルマンを見守るゲルトの兄・・・というよりオーナーとあわせてお父さん2人みたいな雰囲気が!
ゲルトって1話で事故ってからイラッとするくらい拗ねた子でしたけど、本当はこういうところ、ありそうですよね。
きっとチームを追い出されたなければ、いいコーチ〜将来は監督になってたに違いない。

ありがとうございました!

[225] パラディン (2008/09/20 Sat 07:33)