奇跡【金赤風】うすらエロも無

註:21話アナザー風


「広すぎだぜアマンダ、何か手掛かりはないのか!」
「マレクについては一切教えてくれなかったから…、とにかく探すしか」
「見つけた頃にはここが焼け野原になってなきゃいいがな……」
「そうね……」
いつになく弱気なアマンダの声と同時に、不意に誰かの声が聞こえた。
ヘルマンは666を急停止させ、デモナイズした体を元に戻した。
「なんか聞こえなかったか?」
アマンダは数メートル先でパラディンを半回転してヘルマンに向き直った。
「何も。どうしたの、ヘルマン?」
「先のブロックに行ってくれ!忘れ物があるみたいだ」
「ちょっと、ヘルマン? ここまでのルート、なにひとつセンサーに引っかかってこなかったわ……ツヴェルフ(敵)のパラディン以外は!」
アマンダの声に反応しつつ、ヘルマンは666を反転させ、アマンダに背を向けた。
「見落とした横道、あっただろう? 覗いてくる。すぐ追いつくさ!」
「先にひとりで行けっていうの!?」
「お前の話が間違いなければパラディン部隊はほぼ壊滅している。ならば二手に分かれてもそう問題はないはずだ」
「気楽に言ってくれるわね」
「信頼しているのさ」
「わかったわ」
そう言ってアマンダはナビゲーションマップで合流ポイントを示した。
「了解! もしも、マレクがいたら必ず連れて行ってやるぜ!」
ヘルマンはまた赤い悪魔の姿に変身する。
「幸運を祈るわ、ヘルマン。私も最善を尽くす!」
アマンダは遠ざかるヘルマンの帰還を信じ、ヘルマンはある確信を持って、走り出した。

頭の中に直接響く声に従って、ヘルマンはいくつものパラディンの残骸の隙間をぬって走り、倉庫ブロックにいくつかある脇道のひとつに入った。
そしてある倉庫の扉の前で、スピードを落とした。
何か、薄っぺらい物が落ちている。ヘルマンは666を止めた。
歩く風圧だけで何か――白い紙片――は、チリ一つない床をスッとすべった。
「おっと……逃げンなよ」
人の姿に戻りゆっくりと近づき拾い上げた。
やや厚みのある白い紙は、ヘルマンの指になぜか馴染むようだった。
「ンだよ、こんな紙ッペラ。なんのヒントもねぇ……」
不満を漏らしながら、ふと、裏返して、みる。
「……!」
そこには在りし日のゲルト・フレンツェンとヘルマン・ザルツァが笑っている。
「チャンプ……!」
自分がXATスーツに常に忍ばせていた写真――あの墜落事故で自分と共に焼けてしまったであろう写真――だった。
どのような原理でここに存在するのかはわからなかったが、人が悪魔になって生き返るならば、こんな奇跡があっても不思議はない、いや、これは天国のゲルトがさしのべてくれた手かもしれない……ヘルマンはそんな風に納得した。
万感の思いをこめ、写真を胸に押し当てる。
「何度オレの前に蘇る気だよ……ヘヘッ」
ヘルマンの心は震え、熱い涙がこみ上げた。
するとまた声が、今度ははっきりと頭の中に響いた。
『ヘルマン、おれを信じた少年を救ってくれ』
「ゲルト……」
「ああ、わかった! 必ず救ってやる!! 俺があんたに救われたように!」
今やらなければならないことがある。ヘルマンはたくさんの思い出の余韻をかき消し、修道服の内ポケットに手早く写真を差し入れた。
(生きる道はある……)
ゲトルがくれた言葉が体中を駆けめぐる。活力が漲る。
「やっとオレも、一人前になれそうだぜ!」
このような体にされた怨みも、底知れぬ力への畏れも、仲間の死への絶望も、死への恐怖も……すべてを打ち払ったヘルマンがいた。
「ここでいいって言うんだな、ゲルトォッ!」
ドアに向かい、ハルバードを一閃、ショートしたドアから鈍い音と火花が散った。
研究所員らは突然の赤いデモニアックの来襲に絶叫した。
「感染するぞ!」
「気をつけろ!!」
慌てふためき次々に通路へ飛び出してくる研究員たち。
「来るなぁぁぁっ!」
銃をとり応戦しようと引き金を引く者もいたが、ヘルマンの体まで銃弾が届かないと見るや、銃器を放り出し泡を喰ってその場を逃げ出した。
落ち着ききったヘルマンは、ただ、佇むだけだった。

一騒動収まると素早く倉庫の中に入りこんだ。
様々な機械が研究員のプログラムに従い整然と働いている。間違いなく研究室だった。
「ったく、倉庫とか嘘吐いてんじゃねーよ!」
ガラスで仕切られた奥の部屋、そのカプセルの中でマレクが眠っていた。以前と変わらぬ人間の姿にヘルマンは安堵した。
(チャンプ、あんたを信じたオレは間違いじゃなかった……)
奥の部屋へと続く中扉は厳重に閉ざされていたが、ヘルマンはデモニアックの力でドアのアクセス権を制御し、簡単に侵入した。
カプセルを開いて、マレクの体を揺すり抱きしめた。
温かい体、間違いなく生きている……。
「マレク……よかった!」
そのまま担ぎ上げ、倉庫を出た。
「よし、こんなところすぐにオサラバしようぜ」
マレクを666に乗せ、ヘルマンはゆっくりと走り出した。
静かに息をしているだけで目覚める気配はない。だが、ヘルマンは構わず話しかけた。
「聞こえているか、マレク? 目が覚めたら、チャンプとオレにお礼を言えよ!」
内ポケットの写真を手で確かめ、ヘルマンは少し笑った。
「お前がちゃんと言ったかどうか、ゲルトに聞きに行くからな!」

アマンダのパラディンが、合流ポイントに見えた。

[178] 九郎 (2008/09/15 Mon 07:34)


RE

クラビット視聴組21話まで見て「シドウの声に反応するヘルマン」or「折り鶴が違うものだったら」の後者で書き始め、昨日の茶で最新話の概要に触れこんな感じに。
なにより小坊並みの文章力ですみません。

[179] 九郎 (2008/09/15 Mon 07:41)


確かに

こういうパターンもアリですなw
シドウの出番が無かったら、この展開がいいと思います。
ヘルマン……(´・ω・`)

[187] イーゴ (2008/09/15 Mon 18:19)


アリかと。

「聞こえているか、マレク? 目が覚めたら、チャンプとオレにお礼を言えよ!」

ここのセリフが好きですよ〜
ああ、ますます赤がいい男になってしまう。&写真に納得がいく。

[196] hanage3 (2008/09/16 Tue 17:39)